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ダイカストと非鉄鋳物の欠陥解析と観察に考える
ダイカストや鋳物の世界では、「不良」と「欠陥」を最小にするための原因解明が重要であり、これから、どのような対策を執るかがその企業の技術力になる。ユーザに納品できない「不良」と「欠陥」製品は混同して使われやすい。この違いは人に置き換え、あの人は「不良」だ、あの人には「欠陥」がある、といった方が分かりやすいであろう。
表面処理品の色ずれや色むらは使う機能、強度特性などにはほとんど影響しないが、ユーザの品質基準に合わない「外観不良」になるため、「不良」となる。あまり大きな声で言えないが、造った会社の技術と製品に対して「もったいない」という気分になる。
最近、長年気に掛かっていたダイカストの「欠陥」事例を解析できる機会に多く恵まれている。新しい欠陥や解析してみたい欠陥が持ち込まれると、心の中では「やっと会えた」という気持ちになる。例えば、亜鉛合金ダイカストの粒間腐食は国内のダイカストの欠陥解析を始めて以来、十数年の間、写真集でしか見たことがなかった。それがある時、一面にひび割れた亜鉛ダイカストが持ち込まれた。手で折ってみると煎餅のように簡単に割れる。断面組織は腐食なしでも粒界が明瞭に判別できる。これまでは、国内品の品質が高いので解析の機会に恵まれなかったが、最近はこんな海外品が頻繁に持ち込まれる。Pb、Sn、Cd量の過剰が原因であり、それぞれの元素の欠陥事例が集まった。さらに、Mgは粒間腐食を抑制する効果があると言われ、材料には数百ppm含まれるが、JISの不純物の上限値よりもほんのわずかに高いPb量でMg量がほとんど含まれない製品でもやはり起こることを体験できた。
気に掛かっていた「欠陥」の一つにAl- Mg合金鋳物の変色がある。引け割れが生じた破面が黒くなる現象である。図1の矢印のように破面の一部の領域が黒ずんで観察される。頭の中では、引け巣が外気と繋がった状態で、たぶん合金中のMgが酸化し、変色すると考えていた。これまで解析できるチャンスは何度もあったが、他の仕事に追われて調べていなかった。実際に走査型電顕で観察すると、図2のように通常組織(図2(a))はデンドライト状になった引け巣の形態をしているが、変色部(図2(b))は一面にMgOの粒子状酸化物(矢印)に覆われている。どこが興味深いかと言うと、「均一な薄い酸化皮膜に覆われているだろう」と考えていた予想を見事見にひっくり返されたことだ。酸化皮膜の形態が溶湯保持の酸化皮膜と違い、また、生成状態から、かなり高温の酸化であることに気付かしてもらった。一つの解析でも見方を変えると多くのことを学ぶことができる。
今、また一つ、解析し損なっていたAl- Si系合金の引け割れ部の変色を解析できる事例がやって来た。