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知的財産権概説 その4

当たり前であるが面白くない。
(財)工業所有権協力センター 吉田 敏樹

 吉田 敏樹 氏これをみなさんが読むのが年末か年明けか知らないが、年が改まるごとに年齢が増える。当たり前である。当たり前であるが面白くない。女の子には「箸が転んでもおかしい」年頃があるが、老鋳物屋は「空徳利が転がる度に不愉快に」なる。
  本題の、知的財産権口座(ワープロの漢字変換でいきなり「口座」が出てくると、山の手線の改札での非接触式プリペードICカード:SUICA(Super Urban Intelligent Card):や鋳造工学会の会費自動引落としと似たものを感じる。便利であるが、貧乏人が懐に手をつっこまれて無理矢理持って行かれたようで面白くない。)の「口座」「講座」なのである。のっけからこんな話で始まるのも不愉快だが私の年齢がそうさせるのだから年齢に免じてお許し下さい。

 さて、講座に入ろう。鋳造時の偏析を避けるにはどうすればよいか、融けあわないものを鋳造するにはどうすればよいか。問題が重力に起因するものであれば宇宙空間で鋳造すればよい。このあたりまでは誰でも容易に思いつく(か、どうか、判断しがたいが)。これを特許出願した人は昭和50年頃からたくさんいる。例えば特開昭52-111911《ダイヤモンドと金属》(なんと手書きによる出願)、最近では特開2000-292071など。分類記号で書けばC22C1/00Zあたりか?(時間があれば特許庁のHPを見てください)試みにこの請求項を読むと、「実質的に無重力環境において金属材料を高周波誘導加熱により浮遊状態で溶解した後、凝固させる装置であって、・・・・・・・」と装置の構成についての出願である。この手の商売で一儲けしようと起業意欲に燃えている先生も慌てて私に相談することはありません(ほかの人がどんな特許を出願しているか知らない。とりあえずこの出願について、ということ)。審査請求もまだのようだが、特許庁の審査官が、「ソノ目的ヲ達成スルタメノ装置デアレバ、出願ノゴトキ構成ニ想到スルノハダレニトッテモ容易デアル」などと判断すれば、「残念でした」となるか、「そんなことはない」とカラムか、いずれにしても現状の審査能力からすると時間がたっぷりかかりそうなので、その間にいくつもの空徳利が転がる・・?・・違った、年齢を重ねることになる」ので考えるのも恐ろしい。その他の出願の審査請求結果がどうなっているのか、例によって私はそれらを調べるほどヒマではない。
 本物の講座であれば、「この例から出願時のいろいろな注意が引落し」、でなく「引き出せま~す」とくるはずだが、これは何しろ概論であるから、これで終わりである。

 宇宙旅行といえば、月探査衛星は「かぐや」というらしいが、(新聞で読んだ。新聞が100%正確であるとはいえないので「らしい」とする。)なんとなく気に入らない。広辞苑ではたしかに「かぐや/姫」と切れるように書いてあるが、肝心の「かぐや」はない。(「家具屋」なら「容易ニ想到スル」)竹取物語の中でこんな使い方があるのだろうか、と思ったがあいにく手元に本がない。ほかの「物語」をもち出すと年が暮れるのでこれもここまで。中国も同じことをしているらしい(また、「らしい」である。自分で中国製の衛星が飛んでいるのを見たわけではない。アメリカには「アポロの月着陸報道はヤラセである」と信じている宗教団体があるらしい。学校で進化論を教えてはいけない州もあるらしい。私も大陸移動説は教えてもらわなかったが、ここでウェーゲナーの話を始めると多分収拾がつかなくなる)。中国の探査衛星の名は「嫦娥」という。(もう、面倒なので「らしい」は省略する)「嫦」は「ゴウ」あるいは「コウ」と読むらしいが、(ツクリの常は亘とおなじか?)白川静の「字通」では「常娥」としているから、日本ではジョウガと読む方がふつうと思う。ちなみに、「字通」には「嫦」はみあたらない。「嫦娥應悔偸靈薬」(嫦娥ハ応《マサ》ニ悔ユベシ、霊薬ヲ偸《ヌス》ミシコトヲ。)は李商隠(りしょういん)の詩である。普通ならここでこの句の主人公「嫦娥お姉さん」の解説となるのだが、私は気がすすまない。芥川龍之介の「偸盗(ちゅうとう)」を読んでないのがバレるのも気に入らない。気になる人は、岩波新書「続人間詩話」吉川幸次郎が良い。