関東支部の活動

研究

第16回加山記念講演会

アルミニウムの溶解と溶湯品質

東京工業大学名誉教授 神尾 彰彦 氏

神尾 彰彦 氏 平成16年4月23日(金)に日本鋳造工学会関東支部 第16回加山記念講演会が日立金属高輪和彊館で開催されました。今回は、東京工業大学名誉教授神尾彰彦氏により「アルミニウムの溶解と溶湯品質」と題して講演していただきました。ここに講演の概要を示します。

  近年、地球環境保全を目的にCO2削減に結びつく輸送機器などの軽量化が求められ、重要保安部品に高強度高靱性のアルミニウム合金が使用されるようになってきた。そのため高真空ダイキャスト、スクイズキャスト法、低圧鋳造法および半凝固鋳造法などの高品質鋳造プロセスが開発されてきた。このような高品質アルミニウム合金では、溶解と溶湯品質が重要となる。

 高品質なアルミニウム鋳物・ダイカストを得るには溶湯の清浄度を上げることであり、それには水素ガスと介在物(主に酸化物)の管理が重要である。アルミニウム合金中の水素ガスはポロシティーの原因となる。そしてアルミニウム合金の水素ガス吸収は、溶けて液体になると、固体の20倍の吸収を示し、溶液中では溶解温度の上昇と共に指数関数的に増大する。水素ガスによるポロシティー欠陥が生じない許容量は、砂型鋳造で約0.15ml/100gAl (約1×10-5mass%H2)、重力金型鋳造や低圧鋳造で0.2ml/100gAl、スクイズキャスティングで0.3ml/100gAlと言われている。水素ガスの効果的な除去はフラックスの使用である。フラックスは、塩素化合物とフッ素化合物を混合したものである。フラックス中の塩素は、効果的に水素と結びついて除去し、フッ素は介在物中の酸化物とAlのぬれ性を阻害し分離しやすくなると考えられている。しかしフラックスは、処理後の塩化物、フッ化物の廃棄物処理が問題となる。そのため、Ar, N2などの不活性ガスを吹き込み除去することが多くなった。不活性ガスは微小気泡として溶湯中に出し、溶湯を攪拌することで効率よく水素ガスを除去できる。そのため、攪拌インペラーから微細な気泡が出る構造の脱ガス法が効果的である。

 アルミニウム合金溶解炉の重要な要素は、省エネルギー、高歩留まり、高品質、成分変動がなく、経済的で省力、環境安全性に優れ、メンテナンスが容易で実生産に適する溶解炉が求められる。溶解炉は、反射炉、るつぼ炉、浸漬炉、誘導炉がある。これらの炉の特徴を述べると、誘導炉はあまり使われることはない。集中溶解で、かつ大量溶解には熱効率に優れた反射炉のタワー式溶解炉が用いられている。しかしこれは溶湯を直接バーナーで加熱するため、加熱部が局所的に高温となり、水素ガスや表面酸化による介在物が増える。水素ガスと介在物(主に酸化物)は、どちらかだけでなく連動し増加する傾向がある。そして高温になればなるほど急激に増加してくる。るつぼ炉は、間接加熱のため酸化物の発生は少ないが、溶解・保持炉としては目標鋳造温度を得るために高温溶解になることが多い。バッチ式で大量溶解に不適で生産性は低い。浸漬炉は、溶湯内部からの伝熱加熱で熱効率が高い、間接加熱のため酸化物の発生は少なく、連続操業にも適するが、立ち上げ時間が長くバッチ溶解には不向きである。ホットチャージ式保持炉操業に向く。

 最近、これらの溶解法の特徴をふまえて、タワー式溶解炉のタワー部とるつぼ炉を組み合わせた連続溶解・保持炉が開発された。低温溶解によるエネルギーの消費量の削減、間接加熱のため酸化物の発生は少ない、るつぼ交換だけでメンテナンスが容易、連続・バッチ式に対応などがある。

 水素ガスと介在物(主に酸化物)の削減には、ガスを吸収させない、酸化を抑制することが重要であり、間接加熱と低温溶解がキーワードとなる。

>>歴代加山記念講演会