関東支部の活動
第18回加山記念講演会
セミソリッド鋳造についての最近の話題
平成18年4月21日(金)に日本鋳造工学会関東支部 第18回加山記念講演会が日立金属高輪和彊館で開催されました。今回は、平成12,13年度の関東支部長を歴任された千葉工業大学工学部教授の茂木徹一氏により「セミソリッド鋳造についての最近の話題」と題した講演をしていただきました。
茂木先生は、千葉工業大学工学部教授として、金属の凝固の研究を長く続けられています。今回の講演では、研究室紹介ビデオとして金属の凝固現象をまとめたビデオをあらかじめ上映していただきました。このビデオでは、高温ステージ上の石英セルの中で低融点の純金属や合金を溶解し、一端をガスで冷却し熱流を生じさせ凝固現象を直接観察するものです。純金属の錫では凝固界面が平滑に移動するのがよくわかります。
柱状晶組織になりやすい合金での実験では、冷却セル端面から熱流の方向と反対にデンドライトが一次の方向に成長し、続いて二次が成長してぶつかり合い柱状晶が完成しています。等軸晶組織が得られる合金では冷却セル端面の特定のサイトから結晶が晶出し約100μmの大きさになったところで鋳型壁から遊離していくのが観察されました。このサイトからは次々と結晶が晶出し大きくなっては遊離して行きます。これは先生が以前から述べておられる「結晶遊離説」の確証となる実験で、新しくDVDに編集されたものを見せていただきました。先生はこの「結晶遊離説」の考え方に基づき、セミソリッドスラリーの製造方法である「傾斜冷却板法」を発明されました。これは、内部を水冷した板状の樋を傾斜させておき、そこに金属溶湯を流下させ、連続的にセミソリッドスラリーを製造するというものです。最近の研究として、この傾斜冷却板を連続鋳造機に組込みアルミニウム合金、マグネシウム合金のセミソリッド連続鋳造ビレットを製造することに成功しています。以下にその成果を簡単に示します。
1.アルミニウム合金では、AA6070, AA7075という高強度展伸材料を用い、鋳造温度、傾斜角度などを制御して最適鋳造条件を見いだしました。ビレットの外観はAA6070では表面光沢がありますが、AA7075では、ざらついた感じの表面でありました。内部は表層部と中心部で粒径は異なるが粒状晶の組織です。チクソフォーミング性を検討するため再加熱後に圧縮試験を行ったところ、ビレットが粒状晶のものとデンドライト状組織を有するもので比較すると、640℃では粒状晶が低い圧力で変形しました。アルミニウム合金のセミソリッド連続鋳造とチクソフォーミングについて検討したところ、以下の結果が得られた。
- 傾斜冷却板は、初晶アルミニウムの種結晶を溶融アルミニウム合金中に生成させるのに有効である。
- 鋳造温度は低い方がより多くの粒状結晶が生成する。生成した種結晶は、タンディシュ内で粒状に成長し、セミソリッドスラリーが作製できる。
- このセミソリッドスラリーを連続鋳造することによりビレットが作製できる。
- ビレットの鋳造組織が微細粒状である。
- チクソフォーミング時の圧縮力は、ビレットの結晶形状に依存する。
2.マグネシウム合金では、AZ31B, AZ91D合金を用い、鋳造温度、傾斜角度などを制御して最適セミソリッド鋳造条件を見いだしました。ビレットの外観は表面光沢が異なりますが良好でありました。このマグネシウム合金のセミソリッド連続鋳造をまとめると次のようになりました。
- マグネシウム合金でも傾斜冷却板を用いたセミソリッド連続鋳造が可能である。
- セミソリッド連続鋳造においては、粒状結晶を持つビレットの作製に成功した。ただし、最外層部はDC鋳造による連続鋳造組織である。
- 鋳造および加工のための再加熱処理は、粒状の初晶αマグネシウムと液相の共存状態を作るのに有効である。
3.セミソリッド連続鋳造したマグネシウム合金のチクソキャスティングによる成形加工を試みました。成形性を調べるために、AZ91D合金の通常金型鋳塊チップ、セミソリッド鋳造ビレットのチップおよびセミソリッド鋳造ビレットを用い、初期の組織の影響を検討しました。その結果をまとめると以下のようになりました。
- インゴットチップを用いた場合は、半溶融温度での射出成形が出来なかった。
- 傾斜冷却板を用いて作製したビレットおよび金型鋳塊のチップは、半溶融状態での射出成形が可能であった。
- ビレットチップでの成型品の組織は微細粒状化していた。
今回の加山記念講演では、茂木先生に講演して頂きましたが、先生の研究の歴史は凝固の核心をついた基礎研究から始まり、「結晶遊離説」を世の中に定着させ、さらには、その基本原理を応用した傾斜冷却板へと進化してきました。基本を押さえ、そこから新しい発展へと着実に進歩していく研究の一貫性のなかに、先生の研究に対するこだわりあるいは執念の様なものすら感じることができました。先生の更なるご活躍を期待いたしております。