関東支部の活動

研究

日本鋳造工学会関東支部 第80回講演会

最近の鋳物の高品質化動向

去る平成21年12月1日(火)「最近の鋳物の高品質化動向」をテーマに、第80回講演会が日立金属「高輪和彊館」で開催されました。

CAEを用いた薄肉鋳鋼鋳物の変形予測
日立金属株式会社 素材研究所 吉沢 亮 氏
ご講演中の吉沢氏
ご講演中の吉沢氏

「CAEを用いた薄肉鋳鋼鋳物の変形予測」という題目で、日立金属株式会社 素材研究所 吉沢 亮 氏にご講演いただきました。
 まず現在、自動車部品の一体化、薄肉化により部品鋳造時の温度差に起因する熱応力が部品を変形させ,その事が問題になっていると説明されました。
 次に残留応力評価用の鋳物試験片を用いた従来の研究やCAEを用いた鋳造時の変形予測を行った従来研究の紹介があり、鋳物鋳造時の変形及び残留応力に関する研究は20世紀初頭から現在まで、海外国内含めて盛んに行われてきた事が分かりました。
 それらを踏まえて、吉沢氏によるCAEを用いた薄肉鋳鋼鋳物変形予測の研究の紹介がありました。具体的な研究の手順として、実際に砂型鋳鋼鋳物を鋳造し、鋳物の温度履歴、最終反り量を測定、続いてCAEを用いた熱応力解析を実施することにより鋳鋼鋳物の最終変形量を計算、実験値と比較することによりCAEの有効性の検証を行っています。
 上記検証から得られた知見として、注湯から室温冷却までの砂型鋳鋼鋳物の温度解析を実施し、実験時の温度履歴をよく再現する事により、熱応力解析による鋳鋼鋳物の最終変形予測値は実験値を精度よく再現する事が可能であったとの説明がなされました。
 コンピュータの性能は日進月歩であり、今後益々CAEを用いた鋳造欠陥の予測と制御に関する研究が盛んになると考えられ、今後の研究が注目されます。

「超音波振動によるアルミニウムの凝固組織の微細化」
独立行政法人物質・材料研究機構 新構造材料センター 軽量材料グループ 大澤 嘉昭 氏
ご講演中の大澤氏
ご講演中の大澤氏

「超音波振動によるアルミニウムの凝固組織の微細化」と題しまして、独立行政法人物質・材料研究機構 新構造材料センター 軽量材料グループ 大澤 嘉昭 氏にご講演いただきました。
 初めに、省エネルギー等の観点から輸送機器の軽量化にアルミニウム合金やマグネシウム合金が適応されているが、一般的にこれらの破壊靭性は鋼材と比較して低く,その改善が望まれている。その一つとして凝固組織の微細化が図られていると説明されました。
 今回は超音波振動によるアルミニウム合金組織の微細化メカニズムの検討と傾斜ホーンを用いた超音波振動によるアルミニウムの凝固組織の微細化について報告いただきました。
 メカニズム検討の実験方法として、固液共存域の所定の温度でアルミニウム合金に超音波を加えた後、急冷し、組織を観察することにより微細化メカニズムを考察、加えて水モデルによる超音波振動付加下の溶湯の動きの観察を実施したと述べられました。
 実験の結果、初晶の結晶微細化は、溶湯振動、音響流で溶湯が動的に刺激され核生成が促進されることが原因で起こるとの結言を発表され、従来研究での提唱メカニズムの1つである超音波による初晶の機械的破壊は少ないとのお話もいただきました。
 また、実際に傾斜ホーンを用いてアルミニウム合金に超音波振動を加えて鋳造を実施、組織を観察することにより、液相線温度に近い過冷下では急冷と組み合わせた傾斜超音波振動法がアルミニウム合金の組織微細化に有効であると報告されました。鉄系化合物の微細化による機械的特性の改善効果についても示唆されました。
 輸送機器に対する軽量化のニーズは益々高まりをみせており、氏の研究はそれに貢献するものであり、今後の更なる研究が期待されます。