関東支部の活動

研究

第23回加山記念講演会

「鋳造(技術)とその展開」 まとめ

ものつくり大学 名誉教授  櫻井 大八郎
櫻井 大八郎 氏

 鋳造は数多くの要素技術で構成されており、鋳造企業はこれら技術を保有する上に、さらに顧客、生産手段、調達先、従業員等のいわゆる経営資源を持っている。中でも1500℃という高温を取り扱う技術は他に例の少ない技術である。これらをうまく利用することで、新しい技術や商品・需要先等が展開される。技術は理論ではなく、実証されて初めて意味を持つ。昨今日本では理論偏重の気風が見られるが、世界的には実証重視であり、実証出来ることが科学であるともいえる。
 
 今回は、理論と実証の狭間にある「シミュレーション」を例に取り上げ、鋳造方案の改善から始まり、大型厚肉球状黒鉛鋳鉄(DCIキャスク)、縦型遠心鋳造法による底付容器、鉄球鋳型による角型廃棄物容器等の開発やプラズマ-高周波誘導ハイブリッド型溶融炉、一般廃棄物用ガス化溶融炉の実用化、さらにはダイキャストへのシミュレーションの適用による鋳造欠陥の低減などの実例を挙げて、理論-シミュレーション-実験の整合性の取り方、市場開発・商品開発と技術開発のあり方等について説明した。
 
 特にシミュレーションはそのソフト開発が重要ではあるが、より重要なのはそのソフトをいかに使いこなすかである。武士にとって刀の作り方・切れ味は重要であるが、それ以上に重要なのは「刀の使い方」であった。いかに名刀でも持ち主が良くなければ生かされない。鋳物師にとっては鋳物をいかに作るかが重要であって、いくらシミュレーションソフトが立派であっても、使いこなせなくては意味を持たない。

 もともと理論とかシミュレーションというのは、(自然)現象をわかりやすく表現するために、独立変数を単純化して関数化したものであり、すべての独立変数を取り込めてはいない。このため正確に現象を表現することは十分には出来ていない。ただ、有効な武器があればそれを使いこなすのは武士の責任であり、鋳造シミュレーションソフトが何であれ、使いこなすのは鋳物技術者の責任である。ということで、30年間ほどシミュレーションと付き合ってきており、単に鋳造だけでなく、化学反応や熱伝導等にも展開し新しいプラント事業や処理事業の基礎を作ってきた。
 昨今、沃素(I)やセシウム(Se)の話が世をにぎわしているが、沃素は半減期が短いのであまり気にしなくてもよいが、セシウムは半減期が長いので大いに気になるところではあるが、25年ほど前に、鉄中のセシウムは還元性雰囲気化で1350℃以上に加熱すればガス化して排ガス系に移行することが確認出来ており、脱セシウムは可能である。問題はだれがやろうと思うかであろう。
 技術は技術屋によって使われて生きるのです。技術屋は技術を使いこなす努力を今後も続けていくことになるのでしょう。若い技術者に期待します。