関東支部の活動

研究

日本鋳造工学会関東支部

40周年記念講演を開催

関東支部研究担当理事 吉田 誠

 2012年2月24日(金)、東京都産業技術研究センターにて、鋳造工学会関東支部40周年記念講演が開催され、日本鋳造工学会会長を歴任された神尾彰彦先生、並びに市村 元氏にご講演いただいた。当日は、関東支部理事研究副担当、駒崎徹氏が司会をつとめ、約60名が参加して盛況な講演会となった。

鋳造工学会軽合金研究部会の活動を振り返って
東京工業大学名誉教授 第25代日本鋳造工学会会長 神尾 彰彦 先生

神尾 彰彦 氏 神尾先生は早稲田大学で博士の学位を取得された後、東京工業大学に嘱任され以後一貫して軽合金に関する研究、教育に従事された。

 はじめに歴代の軽合金研究部会のテーマと部会長の紹介がなされた。振り返ってみれば部会長については関東支部の理事が担当してきた。いまでは当然のこととして理解されていることであっても、この部会の成果で明らかになったことが多くある。Al-Si系の鋳造合金の引け性を評価することをテーマとした部会があり、とくにNa添加による微細化処理を施した場合の引け性の評価を検討した。評価に当たっては現在も用いられているテータモールドを使用した。Naを添加すると鋳巣が分散することを見いだし、これが耐圧部品の圧漏れの原因になっていることを明らかにした。デンドライトのネットワークが形成されると凝固収縮が開始する。このときの収縮開始温度と強度を測定する方法を北岡氏が提案した。この方法を用いてAl-7%Si合金の収縮応力発生温度を測定したところ、Naを添加すると収縮応力発生温度が共晶温度程度まで低下する。この理由はαデンドライトの発達がNa添加によって抑制されるからと考えられる。また、別のテーマの部会では、デンドライトアームスペーシングと機械的特性の結果を系統的に調査し、溶湯中の水素および介在物が機械的特性に与える影響についても系統的な調査を行った。これによりどの程度まで溶湯中の水素を除去すれば機械的特性に影響を与えないかが明らかとなった。あわせて回転ロータ型の脱ガス装置も開発されてきた。水素量については精密には真空脱ガス法が良いが簡易的には減圧凝固法が用いられるようになった。介在物については、北岡氏が提案したK(Kitaoka)-mold 法が生産現場で簡易的に用いることができ、広く普及することになった。回転ロータ型の脱ガス法とフラックスをもちいると脱ガスと同時に介在物が除去できることも見いだされた。介在物が含まれると、溶湯中の水素が増え、かつポロシティの発生を誘発することが明らかとなった。1989年頃からSrによる微細化効果について検討を始めた。Sr の添加量によっては水素を吸収し易くなるので注意が必要なことが見いだされた。2002年頃から簡易的な靱性評価法の検討をテーマとした。展伸材に用いられていた引き裂き試験法を鋳造合金に適用することが試みられ、熊井先生を中心に精力的な評価が行われた。近年では容体化や時効処理についての検討が行われている。一連の成果はJISの改正や鋳造工学便覧などに引用され広く役立てられている。最後に、軽合金研究部会のさらなる発展への期待を述べられ、講演を締めくくられた。

ねずみ鋳鉄における片状黒鉛組織の数値評価法
第24代日本鋳造工学会会長 市村 元 氏

市村 元 氏 市村氏は昭和36年日産自動車に入社し、20余年にわたり日産自動車の鋳造部門にあって生産技術を担当し、栃木工場の各鋳造ラインの建設、運営に従事された。平成元年に工機工場長として自動車製造に必要な装置、治工具の製作を、平成3年から取締役に就任すると共に座間工場の工場長として乗用車組立、生産に携わった。その後、日産テクシス株式会社社長に転じた。また平成8年から社団法人日本鋳造工学会第24代会長を歴任され、工学会の発展に貢献された。現在は当学会の名誉会員であると同時に、関東支部の顧問として支部の運営にご助言・ご協力を戴いている。今回は、ねずみ鋳鉄における片状黒鉛組織の数値評価法についてご講演いただきました。

 日産自動車に入社する前に東北大学の金研で鋳鉄の黒鉛組織の研究を行った。当時、ねずみ鋳鉄の黒鉛形状を数値で表現する方法はなかった。球状黒鉛鋳鉄では外接円直径をみる、あるいは平均直径(黒鉛の面積を円換算したときの直径のことをいう)をみる方法が存在していた。そこで、組織写真を100枚用意し事務員に粗密順に並べさせ、評価法を検討した。最大径の10ミクロン以上か平均直径5ミクロン以上の黒鉛で組織の粗密度を測定する方法を考案した。すると、とくに平均直径5ミクロン以上の黒鉛粒数をカウントすると、事務員がならべた粗密順を良く表現可能なことがわかった。

 東北大での研究は、日産で役に立った。例えばディスクロータの断面内の黒鉛組織を定量的に扱えられるようになり、切削加工による凹凸と組織との関係も明らかとなった。㈱キリウにおいてブレーキの鳴きの測定を行った。かつての片状黒鉛形状の評価法をK(Kiriu)-FGI法と称して提案し、片状黒鉛形状を均一にする改善で表面の凹凸が低減され、結果として鳴きを低減できることがわかった。観察倍率としては100倍が良いことを見いだした。ただし計測枠について検討する必要があった。1ミリ×1ミリを推奨する。さらに肥痩度(ひそうど)という指標を考案した。最大直径100ミクロンの黒鉛について、矩形としたときの縦横比で評価する。肥痩度とK-FGIを併用することで黒鉛組織を表現可能であり、K-FGIについては再現性の高い評価法であることも確認した。球状化率測定装置を用いて評価することができる。

 最後に、K-FGIはまだまだ発展する技術であるので、ぜひ開発を継承して欲しいとの思いを述べられて、講演を締めくくられた。

40周年記念「南部風鈴」が配布されました

鈴木理恵さん短冊のデザイン なお40周年記念講演会の参加者全員に、記念品として南部風鈴(協力:岩手県の水沢鋳物工業協同組合殿、
短冊のデザインは(社)鋳造工学会本部の鈴木理恵さんです)が配布されました。