関東支部の活動

YFE

YFE委員会報告

第4回 鋳物体験教室

山梨大学大学院総合研究部 中山栄浩

【はじめに】
 4回目をむかえる鋳物体験教室(関東支部YFE主催)が、佐藤健二さん(関東支部顧問)が全体を取りまとめる中で開催されました。今回は対象とする高等学校を3校まで拡張し、千葉県立佐倉高等学校、実籾高等学校ならびに成田北高等学校の生徒さんに参加して頂きました。この鋳物体験教室は使用する設備の関係から、各高等学校で実施される作業と、一堂に会して行う作業とに分けられ、また2ヶ月以上の期間にわたり継続的に実施されました。

【全体の作業スケジュール】

清水一道YFE企画委員長による講義
出迎えてくれた鶏たち

 11月中旬を目処にワックスモデルの制作を各高等学校で行いました。その後、石膏鋳型の造型ならびに乾燥、11月23日(水)には石膏鋳型の脱蝋と焼成、さらには27日(日)には鋳物体験教室の最大のイベントである溶解と鋳込みが行われました。これらの作業は、相応の環境と設備が必要となることから、千葉県佐倉市郊外にある鋳金作家の本山ひろ子さんの工房をお借りして行われました。その後、型から取り外し、湯口や湯道が切断された作品は各高等学校に持ち帰られ、研磨等の仕上げ作業が行われました。以下では、3つの高等学校の生徒さんが1カ所に集まり実施された「溶解と鋳込み」の様子を中心に報告させて頂きます。

【溶解と鋳込み】

勢いよく燃えるコークス

勢いよく燃えるコークス

ロドロに溶けた青銅

ロドロに溶けた青銅

 当日は勤労感謝の祝日でしたが、生憎の雨模様で気温も低い1日となりました。会場である本山工房は、京成佐倉駅から車で10分弱の森に囲まれた自然豊かな高台にありました。到着早々、放し飼いの多数の鶏が出迎えてくれたことに、やや驚きを感じると同時に、これから何が起きるのか?ワクワク感を感じさせるスタートとなりました。挨拶もそこそこに、コークス炉による青銅(CAC406)の溶解が開始されました。10:30頃に着火し、ブロワーによる送風を受けてコークスが勢い良く燃焼する状況に、生徒たちは興味津々のようでした。溶解過程で坩堝周辺に立ち昇る青緑色の炎を見て、生徒さんたちから「これは銅の炎色反応?」との会話が漏れ聞こえた時には、驚きとともに嬉しさを覚えました。約2時間にわたりコークスを投入して燃焼を続けたところ、黄金色を呈する銅の溶湯を得ることができました。生徒さんたちは入れ替わり坩堝の中を覗き込み、日常生活では目にすることが困難な銅の溶湯を興味深く眺めていました。最大のイベントである鋳込みは、安全性の観点から引率にあたった高等学校の先生方が行いました。しかしその大変さを経験するために、10kg相応の錘を仕込んだ取鍋を用いた模擬体験を行いました。生徒さんは取鍋を持ち上げることも困難で、また1,100℃にも達する銅の溶湯を安全かつ適切に鋳型へ供給することの難しさを、身を以て体験できたようです。

鋳込みの模擬体験

鋳込みの模擬体験

心配そうに鋳込みを見守る生徒

心配そうに鋳込みを見守る生徒

  いよいよ鋳込みです。引率の先生方にご担当頂く中で順次鋳込みが行われましたが、自身が制作した鋳型へ注湯される際には、生徒さんたちは鋳造欠陥を生じないように祈りつつ遠方から見守っていました。鋳込みを終えた後、作品が冷える間に昼食を取りましたが、食事中は、作品に関する話題でおおいに盛り上がりました。昼食後、石膏鋳型を壊して作品を取り出しましたが、溶湯が十分に回った、あるいは溶湯が回らなかった作品の部位を見るたびに一喜一憂する姿から、無邪気で高校生らしい一面を垣間見ることができました。この際、思い通りの形状に作品ができていない場合にも、決して落胆することはなく楽しそうである姿はとても印象的でした。また石膏で汚れた服装を気に掛けることもなく一心不乱に作品を取り出す生徒さんたちの姿には、心が洗われる思いがしました。高圧洗浄機を用いて作品の表面に付着した石膏を除去すると、作品の全体像が一層明らかとなりました。アンモナイト、カエル、キンギョ、ウサギの顔を持つ人など、さまざまなユーモラスな作品が現れた時には笑い声で溢れました。中でも、一枚一枚のウロコが精密に再現されているリュウには一段と大きな歓声が上がりました。当日の最後の作業として湯口が除去された作品は、各高等学校に持ち帰られ仕上げの作業が行われることとなりました。

【最後に】

 工芸部の部活動の一環として参加していた生徒さんもいましたが、なかには、現在は演劇部に所属しているものの「将来は工芸作家になりたい」との夢を持っていた生徒もいました。また、「湯が沸いた」および「湯道を切る」などの言葉が違和感なく飛び交っていた状況、さらには手や服装を石膏まみれにしても熱心に作業をする生徒さんたちの姿には大変感銘を受けました。今回の鋳物体験教室にご参加頂いた生徒さんたちの姿を見て、日本のものづくりの将来に一筋の光明を見出すことができたように感じられるとともに、沢山の勇気や希望を頂くことができました。多くの生徒さんたちは、来年の参加を相互に誓い合い解散となりました。  今回の鋳物体験教室にあたり、3つの高等学校を取りまとめて頂いた轡孝之先生、坩堝をご提供頂いた日本ルツボ株式会社、会場の提供とご指導を頂いた本山さん、ならびに日本鋳造工学会関東支部関係各位に心より御礼申し上げます。

石膏鋳型から作品を取り出す生徒
石膏鋳型から作品を取り出す生徒
一枚一枚のウロコが精密に再現されたリュウ
一枚一枚のウロコが精密に再現されたリュウ
ウロコが精密に再現されたリュウ 鋳物体験教室に参加した生徒さんたち