関東支部の活動

YFE

YFE委員会報告

鋳物体験教室

YFE委員 古屋毅文、中山栄浩

【はじめに】
 日本鋳造工学会では、若者に対する鋳物の啓蒙活動を様々な世代について系統的に実施しています。具体的には、小・中学生を対象とした「子ども鋳物教室」、高校生を対象とした「理系学生応援プロジェクト」、さらに大学生を対象とした「学生鋳物コンテスト」などの実施を通じて、鋳物を愉しむ、鋳物を科学する機会を提供しています。今回は「理系学生応援プロジェクト」の一環として、ものつくり大学の西直美先生に企画・統括頂く中で「鋳物体験教室」を開催(ものつくり大学と日本鋳造工学会関東支部の連携事業)しましたので、その概要について以下によりご報告致します。

【開催概要】

 7月31日(月)および8月1日(火)の2日間にわたり、埼玉県行田市にあるものつくり大学において標記イベントが開催されました。西先生が2016年から同大学に奉職された関係からものつくり大学における開催となり、今回は埼玉県立浦和工業高等学校から11名の2年生が参加することとなりました。2日目の終了直前には大雨に見舞われましたが、その他の期間は天候に恵まれ、また充実した実習施設・学習環境とも相まって順調に各種プログラムを実施することができました。日本鋳造工学会副会長 神戸様(日産自動車)、関東支部からは、総務担当の茂泉様(いすゞ自動車)、YFE委員の古屋様(秋葉ダイカスト)、本橋様(本田金属)、朴様(日本ルツボ)、東様(アーステクニカ)、中山(山梨大)が参加し、講義や実習指導などを担当・支援させて頂きました。また西研究室の所属学生に懇切丁寧なお世話を頂きましたことは心に強く残っています。この機会に改めて感謝申し上げます。

【第1日目】


 まず初めに、神戸様より、挨拶がございました。理系学生応援プロジェクト実施の背景の説明と、せっかくの機会なので鋳造法にふれ、貴重な経験をしてほしいとの話がございました。その後、ものつくり大学 学務部入試第一係長 岩間様から、ものつくり大学について紹介をして頂きました。卒業生の方がデザインされたという手さげのバックを、参加した学生さん達にプレゼントして頂き、自分の考えた物が、形になる喜びを最初に伝えて頂いた気が致しました。

 

 

 その後、西研究室の神田さんと笹岡さんに、ものつくり大学の製造棟を案内して頂きました。大学の設備を楽しそうに説明している様子を見て、通っている大学で充実した経験が出来ている事が伺えました。実際に設備の種類(マシニング加工機・旋盤加工機・射出成形機・プレス機・3Dプリンター等々)・数も多く、授業での実体験を踏まえて話をして頂き、高等学校の学生さん達もそれぞれの加工機でどのように加工がされるのかがイメージ出来たと思います。また、案内して頂いている中で、ものつくり大学の学生さんが製作した加工品も展示されておりました。マシニング加工や鋳造、3Dプリンターで製作した展示品を、興味津々でのぞきこんでいる高等学校の学生さん達の反応が初々しく、微笑ましい光景でした。



 製造課を案内して頂いた後、西先生より、鋳造の定義や特徴、用途や歴史といった概要から、実際に鋳造法で使われている材料、金型の種類、設計方法など、鋳造法によるものづくりについて、幅広く丁寧に説明をして頂きました。
 鋳造法に携わったことのない高等学校の学生さんもいるとのことでしたので、中には難しく思えるところもあったかもしれませんが、何事も原理を知ることは大切なことであり、今でなくても必要な時に思い出して頂ければと感じました。 最後に、鋳造実習をするにあたっての安全教育と、実習内容を説明して頂き実習場へと移動しました。


鋳造実習は2日間かけて、①オリジナルのネームプレートの構想、②模型づくり、③鋳型づくり、④鋳造、⑤型ばらし、⑥仕上げを行う内容となっておりました。1日目は①~②までを行うと西先生から話があり、さっそく学生さん達は、どのようなネームプレートを作るかデザインの構想を開始しました。



 ネームプレートは、予め長さ15cm以内、高さ5cm以内、厚さ2cm以内で立てかけられるようにするといった課題も与えられておりました。
 今回の設計する際の重要なポイントとして、抜き勾配の設定があります。最初に抜き勾配を無視して設計をしてしまうと、いざ抜き勾配をつけた場合に機能を低下(ネームプレートを自立させた際に、名前が下を向いてしまう)させてしまいます。

勾配を無視した場合 勾配を付けた場合 (プレート・名前部を下型に設定した場合)

 高等学校の学生さんも、事前に抜き勾配の話を西先生から受けていましたが、名前の部分をどうするかで頭がいっぱいで、全体のイメージまでは出来ておりませんでした。それもそのはずで、今回初めて鋳造法を体感しており、この体験を通して鋳造法の理解が深まり、興味を持ってもらえれば良いなと感じております。
 話は鋳造実習に戻り、始めは何を表札にデザインするか迷っており、周りを見渡したり、友達とどうするなど話をしたりしていましたが、段々と自分達の思いを絵にし、模型の製作に集中していく様子が、私には活き活きと感じ、頼もしくも見えました。

やはり、ものづくりは人を魅了するものであることを再確認致しました。初めの戸惑っていた感じからは想像ができない良い模型を前に、2日目の安全と成功を祈って1日目を終了致しました。


【第2日目】

 2日目は、神戸様による講義「自動車に使われる鋳物」からスタートしました。自動車の軽量化を促進しなければならない背景、軽量化を実現する上で鋳物が果たすべき役割、現在の自動車に使用されている鋳物部品、ならびにそれらの具体的な製造方法などについて、高校生が理解できるように平易かつ具体的にお話しして頂きました。なかでも、GT-R等に使用されている鋳物部品が運び込まれ詳細な解説が行われた際には、受講雰囲気は一気に盛り上がり、高校生の鋳造に対する興味が一段と高まった様子が明確に感じられました。


 引き続き、前日にデザイン・作成した模型(ネームプレート)を用いて、CO2硬化タイプの鋳型製作を行いました。今回は、2人がペアを組みそれぞれ作成した2つの模型を用いて1つの鋳型を共同して造型しました。鋳枠に鋳物砂を込め、突き固め、CO2ガスを吹き込んで鋳型を硬化させる際には、会話も少なく熱心に作業にあたっていました。昼食後には、メインイベントである鋳込みを行いました。ドロドロに溶解したアルミニウム合金(AC4CH)の溶湯を目前にすると、高校生の好奇心は格段に高まった様子でした。溶湯に関する解説と安全指導の後に、各自が慎重かつ丁寧に溶湯を鋳型に注湯しました。冷却後に鋳型から鋳物を取り出した際には、その出来栄えについて歓声が上がるだけでなく、避けられなかった鋳造欠陥の原因についても冷静に分析しようとする高校生の姿はとても力強く感じられました。

【おわりに】

 鋳物体験教室の終わりにアンケートを実施致しました。詳細については、別途「アンケート結果」をご参照頂きたいのですが、今回の参加を通じて、鋳物の愉しさを感じて頂けただけでなく、抜け勾配などの鋳造技術の一端についても科学して頂くことができたように感じております。また何より、複数の高校生から「進路を考える上での参考になった」との感想を頂いたことから、今回の鋳物体験教室は大成功であったと考えております。


 最後に、本イベントを企画・統括頂くとともに、実習会場、実習設備ならびに宿泊設備などをご提供頂きましたものつくり大学の西先生、ならびに実習・安全指導などでご協力下さいました関東支部のみなさまに、深甚なる謝意を申し添えます。

文責:YFE委員(古屋毅文、中山栄浩)

別添:アンケート結果 [PDFファイル 98KB]