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ギリシャ神話の世界(七夕編)
機械材料研究室 白木尚人
「ハワイで星が見たい。」そんなことを父が言ったのは、2002年の秋だった。ハワイ島のマウナケア山頂(4,205m、国立天文台のすばる望遠鏡がある)から少し下った所に1986年スペースシャトルチャレンジャー号の事故で亡くなったハワイ日系3世のエリソン・ジョージ・オニヅカ氏の偉業を紹介した「オニヅカ・ビジターセンター」がある。父はそこで満天の星を見たいらしい。すでに70歳近い父を単身で海外旅行させるわけもいかず、私が同行することとなった。 そこで父と見た夜空の星は、今までの人生の中で最高の夜空だった。文字通り満天の星を実感したし、車で山をおりていく際もエリダヌス座のアケルナル(α-Eri、全天球の中で9番目に明るい星、日本では鹿児島以南でしか見られない)や南十字星も見ることができた。
何よりも物心がついてから、天の川を見たのは数えるほどしかなかったし、Milky Wayとはよく言ったものだ。だが待てよ・・・何故Milky?ギリシャ神話では、女神ヘラの夫で全能の神ゼウスが、人との間につくった赤ん坊ヘラクレスに不死の力を与えようと眠っている妻ヘラの乳を吸わせた。ヘラクレスは乳を吸うが強く、痛みに目覚めたヘラが赤ん坊を突き放したときに飛び散った乳が天の川になったとされている. 天球の星座とギリシャ神話は大いに関係が深い。と言うよりたいていの星座は、ギリシャ神話を起源としている。自称ロマンチストな?私は、そんなこともあってギリシャ神話(の講義ができるほど)に傾倒していったのである。
さて、7月である。7月における夜空のイベントと言えば、七夕の夜の織姫(織女星)と彦星(牽牛星)の話であり、これは中国・日本の七夕伝説が起源になっている。TVでは「今夜はあいにくの曇り空で、織姫と彦星を見ることができません・・・」なんていっているけれども、そもそも東京には星空はないから、そういう話をされてもフンイキがでない。ご存じのように織女星は「こと座」のベガ、牽牛星は「わし座」のアルタイルであり、神話の世界でのこの2つの星座は、日本の七夕の伝説ほど色っぽい話ではない。
「こと座」の琴はオルフェウスの竪琴と言われている。オルフェウスはギリシャ神話中最高の詩人であり、エウリデュケと結婚したが、彼女はヘビに噛まれすぐに死んだ。悲しんだオルフェウスは冥界のハデスのところに行き、琴を奏でて妻を戻してくれるよう頼んだ。ハデスはオルフェウスの妻への想いと琴の調べに心を打たれ、妻を連れて帰るのを許可したが、「地上へ登る途中で後からついてくる妻を決して振り返ってはならない」という条件をつけた。地上の光が見えた頃、オルフェウスは妻がちゃんと後をついてきているかどうか不安になり、思わず後ろを振り向いたため、妻は再び冥界に永遠に連れ戻された。オルフェウスは嘆き悲しみながらも各地を巡り詩い続けたが、酒神ディオニュソスの祭で泥酔した女たちに八つ裂きにされ、川に捨てられた。その後レスボス島に流れ着いたオルフェウスの首と琴を、主神ゼウスが星座にしたということになっている。
一方、「わし座」は、トロイアの王子のガニュメデスがあまりに美しい美少年だったため、神の宴の飲み物を給仕させるため、いわゆるお酌係にするために、ゼウスが鷲に化けて連れ去ったと言われている。黄道12宮星座のみずがめ座は、ガニュメデスの持つ水瓶と言われている。また、木星の衛星にガニメデがあるが、この同じ神話に基づいている。ローマ神話では木星は主神ユピテル(ギリシャ神話名ゼウス)であり、そのまわりを回る星であることからというわけ。 そうか、七夕伝説に関わる2つの星座は、ギリシャ神話の世界では、酒に酔ったオンナ達と同性愛か・・・よく「所変われば・・・・・」と言うけれど、全くもってイロッポクない。このようにギリシャ神話のことを知れば知るほど、様々なところに関係していることに驚き、酒の席での話は尽きない。
そうそう・・・球状黒鉛鋳鉄の黒鉛球状化元素の1つであるセリウム(Ce)の名称だって神話が関係している(らしい)。それはまたの機会に。