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リレーエッセイ

円高、税、インセンティブ、新興国の競争力、日本のモノづくり

日産自動車(株) パワートレイン生産技術本部 成形技術部  浅井宏一
浅井 宏一 氏

最近 気になるのは円高です。

仕事柄 グローバルでコスト競争力を検討する機会が多く、前提条件としている為替レートでその競争力がかわります。また前提条件は、新車プロジェクトの確定時期と販売時期にリードタイムがあるので、為替リスク(円高)を加味した前提となり、モノづくり部門は、更なるコスト競争力アップ と 現地化の促進が求められます。
さて、気になる円高(グラフ1)の状況ですが、1995年4月に79円75銭と瞬間1ドル=80円割れの史上最高値を記録しました。2007年の夏サブプライムローン問題が顕在化、一気にドル売りが進行し、100年に一度の大恐慌といわれた2009年9月のリーマンショックがおこり、FRBの超低金利政策の長期化とドル安容認(アメリカの輸出産業に有利)で87円台突入。「ドバイショック」によって、新興国経済などへの懸念から円は独歩高の状態となり、1ドル=84円、 2010年のギリシャ金融危機以来ユーロも大幅下落、ドルも弱含みで推移し、日本は大量の国債を抱えながらも日本の円のみが特高して2010年8月には1ドル83円台、結果として輸出企業が打撃を受け日本株価も下落。
グラフ1何故、多額の借金を抱えている日本の円が強くなるのか、 円高は日本経済全体にとって良いことなのか(資源・エネルギー、食料を安く購入できる、物価が下がる)、悪いことなのか(輸出産業の利益悪化、賃金、収入が下がる、デフレスパイラル)国内産業の空洞化を避けるためには、グローバルでのコスト競争力確保が必要ですが円高レベルによっては限界がある。
円高以外にも法人税、企業誘致の設備投資、税金等インセンティブ 等、グローバル競争力に影響します。ネットで調べたら、日本は2009年の法人税ランキング 1位です。

グラフ2

グラフ2) ドイツはここ数年で大幅な法人税の削減を実施してます。日本の産業を活性化し、さらに海外から有力な企業を集めるためにも法人税の減税、企業誘致時のインセンティブは有効な手段になります。
新興国の競争力ですが、8月に中国(広州)に出張しましたが、新車、高級車が多く見られ、マンションの建設ラッシュも続いています。広州と武漢との間に新幹線が開通し、当分バブル?は続きそうな感じがします。弊社の鋳造工場も、立ち上がり時は、鋳造品質、デリバリー、インフラ(突然の停電)、技能面で問題がありましたが、今では少ない日本人で50万台のENGを量産、Q(品質)C(コスト)T(納期、時間)共 グローバルでも高いレベルになっています。中国の現場、技能、技術から日本の技術・技能を早く吸収しようといった意欲も感じます。もちろん生産方式、金型、設備、鋳造条件はすべて日本からの転写前提ですが、将来は、金型及び設備の現地化も進み、さらにコスト競争力はアップすることが予想されます。ゴールドマンサックスの2050年における世界各国のGDP予測(表1)では、BRICSがすべて6位以内にランキングしています。BRICSはマーケットが大きく 十分可能性あると思います。

表1 名目GDP値(単位:10億ドル)
順位 1 2 3 4 5 6 7 8
2004年
実績値
国名 日本 中国 スペイン
GDP値 11,733 4,668 2,707 2,126 2,018 1,932 1,681 1,180
2050年
予測値
国名 中国 インド 日本 ブラジル ロシア
GDP値 44,453 35,165 27,803 6,673 6,074 5,870 3,782 3,603

 日本のモノづくりの強さは、高品質とスピード(開発から販売までのリードタイム)、強い現場力と改善力のスピード、モノづくりに関する高いモチベーションです。強さを維持するためにも日本で生産を継続する必要があります。弊社のモノづくりの特徴として、NPW(Nissan Production Way)、ダイバーシティー、ツールとしてV-UPプログラムがあります。NPWとは「限りないお客様への同期、限りない課題の顕在化と改革」で、日産の車造りへのこだわりと、お客様が求める車を造ること。それから常にチャレンジしていくことです。ダイバーシティーとは、「多様性から高い価値を生み出す」ことで、多様性は会社の強みで、いろいろな考え方を持つ人たちが、いろいろな意見を出し合いぶつかりながら模索することで発展的、創造的なアイデアが生まれます。例えば、カルチャーダイバーシティーに取り組むことで、その地域のお客様にとってより魅力的な車のサービスを提供でき、ベンチマークで競争力を高められ、業務の透明性が増し、対人理解力・論理的思考力・説明説得力が高まり、世界中の優秀な人材を引きつけ活躍してもらうことが可能となり、組織としてより高いアウトプットを出すことが出来ます。V-UPプログラムは、課題設定プロセスと課題解決プロセスのツールですが、課題設定プロセスは、①課題発掘 ②課題分解と定義 ③予想効果確認 ④承認と合意からなり、課題解決プロセスは、提示された課題の達成をコミットメントしチームでスピーディーに解決するプロセスです。
 円高、税金、新興国のコスト競争力は日本の製造業にとって脅威ですが、日本のモノづくりが再成長するためにも、産・学・官の新たな取り組みとモノづくりでチャレンジできる人材育成が必要です。