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リレーエッセイ

ものづくり日本再生

ものつくり大学 特別客員教授  鈴木 克美

鈴木 克美 氏 この秋、ノーベル賞を受賞した鈴木章教授が「資源のない日本には、人間の頭しかない。理科系に、もう少し若い人が興味を持って欲しい」とスピーチしていましたが、若者の意識だけではなく、社会、政治、教育など各方面からの環境づくりも必要です。「ゆとり教育の弊害」や「文系重視の社会構造」、「理科嫌いの小学校教員」なども要因に挙げられますが、円周率を3で教え、物理や化学を選択科目にするなどの変化の中で若者達は「体験」というビタミンの不足からくる栄養失調で「無感動」になっているのではないでしょうか。幼少期から漫画やゲームによる仮想空間での戦闘やスポーツを「経験」していても本当の喧嘩やスポーツを「体験」しているわけではなく、丁度、鋳造を知らずにCAEだけで論議するようなものです。今の若者は決して「三無主義」(無気力・無関心・無責任)ではなく、ものづくりの面白さを体験しないまま理系で学び、インターンシップや製造会社へ入社してから、ものづくりに興味をもつことが多く、学生時代に開眼する学生は少ない。現場で「三ム主義」(ムリ・ムダ・ムラの排除)の実践から、ようやく勉強する大切さを知り、漫画やゲームから卒業できる若者が多いのではないだろうか。

 「ものつくり大学」では、ものづくりに興味を持つ学生が比較的多く、実習が多いので、期待感をもって接触しています。近年はのこぎりを使えなくてもホームセンターへ行けば木材の選定から電動ノコで希望のサイズにまで仕上げてくれる時代にあって、女子学生でものこぎりをテキパキ使う姿に感心し、聞いてみると、「アルバイトは電動ノコでお客相手に木材をカットしているとか・・・」いやはや頼もしい。偏差値や受験では苦戦したかもしれませんが、道具の使い方やデザインへの興味を持つ学生比率が高いのかなとニヤリとするこの頃です。

さて、技術立国といえば、日本に似たドイツがあります。自動車や工学分野で先導的躍進を続けており、ものづくりに対する教育がしっかりしているためと感心させられます。マイスター制度や子供の頃から技術への憧れを持たせる気風があるからと思います。


a:鋳造様子の展示
b:砂型での鋳造実演
c:実習で鋳造された博物館外観のアルミ鋳物鋳造プレート
 昨年秋にドイツのシュツットガルトで開催された第17回欧州マグネシウム協会セミナーで講演した折、市内のポルシェ博物館を見学しました。そこには、電動ハブモーターを取り付けた現在のハイブリッド車の元祖とも言える車があり,ポルシェ創業者のFerdinand Porsche が110年前のパリ万博にこれを出品していたのには驚きました。当時はエンジン出力が小さいために、駆動力補助が目的でしたが、近年、エネルギー効率の手段としてハイブリッド車が浮上したのは面白いことです。また最近ではBMVの過共晶アルミ合金をインサートしたマグネシウム合金ダイカストエンジンの量産化や、GIFAでも鋳造の革新的技術はいつもドイツからの感があります。
昔、ミュンヘンの国立博物館に立ち寄った時、若者達が熱心に見学し、鋳造に関する展示も多く、技術立国を支える子供達の教育に役立っていると思いました。中でも階段教室で、観客が上部に鏡を設置した溶解炉を使い、溶湯を見せているなどの工夫した鋳造実演が印象に残り、今回も訪問しました。小型ダイカストマシンやモールディングマシンが設置されており、砂型の実演で鋳造した博物館外観のアルミ鋳物プレートを贈呈してくれました。

ミュンヘンのビール祭り「オクトーバーヘスト」 最後に余談ですが、その折、長年の夢でしたミュンヘンのビール祭り「オクトーバーヘスト」の初日に参加できました。 世界中から、2週間で600人が参加し、300万羽の鶏が料理されるとされるこの祭りは圧巻です。 座る場所探しは困難を極め、隣合わせの人達と陽気に話すのも勇気がいりますが、樽ビールの旨さは格別です。