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ガス欠陥は悪者?
機械システム工学専攻 半谷 禎彦
ある時の学会で、ポーラスアルミニウムというものの存在を知った。スポンジアルミニウムとも呼ばれているらしいが、スポンジと違って気孔が大きくごつごつした感じで弾力性もない。どう見てもスポンジとは似ても似つかない。けれども持ってみると非常に軽い。気孔が大部分を占めアルミニウムの割合は極端に少なく変な形をしている。ダイカストでは気孔はご法度と思いこんできたが、その気孔が吸音効果や断熱効果を生み、建材として実際に使われているとのことだ。
それ以降この「変なもの」が気になりだしてきた。金属なのにあの軽さは新鮮だ。そのうちこの「変なもの」を自分で作りたくなり、寝ても覚めても頭から離れなくなってしまった。
そのころは主にX線CTや顕微鏡でダイカストの鋳巣を観察することを研究対象としていた。当時の学生は学校の壁にある染みが鋳巣に見えるというくらい、真剣に鋳巣と向き合ってくれた。ある時「ダイカストを熱処理すると、鋳巣などに閉じ込められた空気やガスが膨れ、ブリスターと呼ばれる欠陥ができる」と聞き、ダイカストでポーラスアルミニウムを作ってみた。ところどころに僅かに気孔が見えるものの、ポーラスとはお世辞にも言えない代物であった。ところが、できた気孔は今までのポーラスアルミニウムでは見たことがない程、美しい。真球に近くダイヤモンドのように輝いて見えた。ダイカストってすごい!
この美しさにはまってしまった。さっそく、あるダイカストメーカーさんに無理をお願いしてご法度である溶湯中のガスを増やす工夫をしてもらった。「ガスを減らす努力の反対をやれば良いのだから簡単にできる」と考えていたが、減らすのと同様たくさん入れるのも難しいようだ。1年ほど色々試して、しだいに溶湯中のガス量を増やす事ができるようになってきた。ある日、作製したポーラスアルミニウムが水に浮いた!ダイカストのガス欠陥(もはや「欠陥」とは言えないかもしれないが)のみを使って、気孔の割合の多いポーラスアルミニウムができたのだ。背中がぞくぞくした。パンを作る時、イーストを使わずに小麦粉などの材料を混ぜる時に入る空気のみで、あのふわふわした触感を出すようなものである。通常のダイカストではご法度のガスが、ポーラスアルミニウム作りに役にたった瞬間だった!
今やポーラスアルミニウムは私の研究の大部分を占めるようになってきた。現在はダイカストから傾斜機能ポーラスアルミニウムの作製を試みており、ダイカスト無しには一歩も進めない。ダイカストのガス欠陥に助けられている日々である。