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リレーエッセイ

たかがマンホール、されどマンホール

日本鋳鉄管株式会社
ダクタイル製品製造部 技術室長 渡辺久義
渡辺 久義 氏

 弊社は、社名が示すとおり、鋳鉄管をメインに製造販売をする会社でありますが、マンホールの製造販売も行っております。私は入社以来15年間、そのマンホールの製造工程を担当してきました。
 御存知の方も多いと思いますが、マンホールの柄にはその土地特有の名物等がデザインされており、表面を眺めるだけで色々と情報が得られます。
 つい先日、電力不足対応の為、7~9月の3ヶ月間操業体制が変則となり、家族を相手に出来なかった罪滅ぼしとして、お財布係りを任命され、家族旅行に連れ出されましたが、折角遠方まで出向いたのに、街中の景観を楽しむより、マンホールに目が行ってしまいました。
 私の場合、蓋のガタツキが無いか?枠から蓋が出っ張ってないか?表面の摩耗状態は?と点検さながらの目で隅々まで観察してしまう為、立ち止まって動かない私に、子供たちは「ねー,早く行こう」と初めは手を引いていましたが、そのうち興味が沸いてきたらしく、最後にはマンホール上で記念写真を撮ると言い出してしまい、家族にも確実に影響を与えております。

 ところで、これらの図柄が製作されるまでの過程を説明すると、まず自治体よりデザインに盛り込む名所、旧跡、市の花などが出されます。各社がそのお題を元にそれぞれのセンスでデザインを行い、後日プレゼンで決定された図柄が採用されます。この採用された図柄が、事業体より白黒で表示された一枚の紙で提示され、黒く塗られた所が出来上がったマンホールの凸部になります。この白黒の紙から、型を製作するのが非常に苦労しました。
 まず、型を作るために図柄の修正を行います。鋳物になったときには、白黒ではなく、凹凸だけで絵を表現します。また、鋳物には勾配も必要なため、そのままでは、絵が太って見えたり、細かい部分が表現されなくなってしまいます。これらを考慮して図柄を修正し、型製作用の原図を作ります(当社では、専属の女性社員にお願いしていました)。そして、この原図から模型を製作するのですが、製作する方法は、時代と共に進歩してきました。当初は、伸尺を加味した大きさに拡大し、これを木型の上に張り付け白黒図柄の白い部分を削って型を作っていました。その後、感光性樹脂により型製作を行いました。原図の白黒を反転させた原画を作り、この原画を透して光を当てることにより、光が透過した部分だけが硬化し凸部が形成されます。また、光は一定の角度で照射されるため、抜け勾配も形成される優れたものでした。更に最近では、図柄をスキャナで取り込みデジタルデータに変換し、それをメールで模型業者に送り、CADCAMで削り出すため、当初とは比べものにならないくらい綺麗で、早く、安くなりました。
 しかしながら、この様に苦労して製作した、美しい図柄マンホールも、二輪ライダーにとっては危険極まりない厄介者です。作っておきながら言うのもなんですが、最近まで車しか乗らなかった私にとって、マンホールが滑ると言う感覚は人から聞いた話でしか知りませんでした。しかし、実際に二輪車で通ってみると、驚くほど滑るのです!危うく転倒しかけました。鋳鉄製マンホールは、晴れて乾燥していれば、そこそこの摩擦係数を有していますが、雨が降って濡れた状態になると著しく摩擦係数が低下し、デザインによっては氷上と同じ位になってしまいます。また、この摩擦係数は、設置当初は鋳肌の凹凸により、周囲のアスファルトに近い摩擦係数を示します。しかし、摩耗により鋳肌がなめらかになり、あの何とも言えないいい色の表面になると、図柄の凹凸のみに頼ることになり、摩擦係数は低下してしまいます。

耐スリップ模様マンホール

 その為、現在は次世代高品位マンホールが規格化されて、耐スリップ性能を有したマンホールが開発されています。耐スリップ性能は表面に独立した多数の凸状突起があり、アスファルトと同等の摩擦係数を持っています。車道用のマンホールは運転者が図柄を見ることが出来ない上に、スリップによる事故発生防止の観点から、耐スリップの凸凹幾何学模様に置き換わって来ています。摩耗して凸凹が無くなったらスリップするのでは?正にその通りであり、表面摩耗による交換目安として、タイヤと同様に模様の中にスリップサインが隠れています。

 ここまでは、皆様の目に触れられることについてお話ししましたが、その他にも目に見えない所でメーカーの技術の粋が盛り込まれています。「たかがマンホール、されどマンホール」、たまには愛情を持った目で見て頂けると、ありがたい次第です。