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リレーエッセイ

「既存の技術の組み合わせ」による革新的創造

真岡製作所 技術センター 鋳造ラボ長 塩谷 忠英
塩谷 忠英 氏

 先日、友人が集まる食事会があった。懐かしい顔もあり、昔話に多いに盛り上がっていたのだが、ふとした事で気が付いた。7人中6人がiPhoneユーザー。残りの1人もiPod touchユーザーであった。
 私は昔から大のApple信者というわけでもジョブズ信者というわけでもないが、社会人になって最初に購入したパソコンはMacintoshであった。その後、PowerBook、iMac、iBookも使い、iPod、iPod touchと購入し、多いに楽しみながら活用させてもらっている。Apple製品を所有している友人にも聞いてみた。何がそんなに魅力なのだろうと。「所有欲に駆られる。周りに自慢したくなるのがApple製品」という答えが返ってきた。なるほど。確かにその通りかもしれない。性能が良いというだけではないのだ。
 先日、亡くなったApple社の元CEOスティーブジョブズ氏は、自分の世界観を「芸術品」として表し、妥協を許さず、「新しいもの」を創造する天才だったと思う。だが、技術的に常に最新の物を取り入れていたわけではない。既存の技術を組み合わせて新しい価値を創造してきた。初代マッキントッシュは、マウスでカーソルを操作するという体系を普及価格でいち早く実現した。シンプルでスケルトンブームを巻き起こしたiMacも性能が優れていたわけではなく、当時当たり前だったフロッピーディスクドライブを削除したり、SCSIやRS-232Cシリアルポートを削除したりし、USB規格へ一本化する思い切った仕様で話題を呼んだ。 
 何でも取り入れるのは簡単だが、切り捨てるのは難しい。安価に安定した作り込みをする為に、切り捨てる事も必要である。大ヒットしたiPodも機能性が最大の利点だったわけではない。携帯音楽プレーヤーのはしりだが、インターネットによる音楽配信を基本としたシステムに狙いを定めたところが最大のポイントだった。日本の業界が製品自体の小ささや音質にこだわっていたのに対し、デザイン性やPCとインターネットとの融合による使いやすさにこだわったのが魅力だった。音楽配信という新たな挑戦を行なうことで、iPodという製品自体を大ヒットさせたのだ。
 iPhoneのヒットは、現在も続いている。この製品も他社に無い特別な機能がたくさん備わっているわけではない。ジョブズ氏のデザインへの徹底的なこだわりと、既存の技術を上手に組み合わせる事の融合がある種の芸術品を生み出す事に成功した例といえる。
 かつてはゲーム&ウォッチやゲームボーイ、最近ではDS等の大ヒット製品を持つ任天堂(株)の製品開発担当であった横井 軍平氏は、「枯れた技術の水平思考」という言葉を使っている。ここでいう「枯れた技術」とは、「廃れた技術」ではなく、「すでに広く使用されてメリット・デメリットが明らかになっている技術」のことで、これを利用すると開発コストを低く抑えることができる。また安定して安価に製造する事が出来るという事である。任天堂(株)のヒット製品はこの考え方で生まれた。
 新規に開発された技術は、安定した製造が難しく高コストになりがちである。鋳造業においても「枯れた技術」がたくさんあると思う。いや「枯れた技術」の方が多いといっても過言で無いかもしれない。だからといって、新たな「価値」を持つ「新製品」が開発出来ないわけではない。既存の技術(製造方法や材質、形状、製品の種類等)を組み合わせて、新しい「価値」を創造する事が安価で品質的にも安定した製品を生み出すことも可能であると感じる。

 当然、誰もやった事のない事(物)を創造する事は、大きな価値がある。しかし既存の技術を利用し、既存の考え方を脱却し、それでいて新たな革新的な価値を創造する。一見、矛盾している気もするが、それもひとつの製品開発や工法開発の考え方ではないだろうか。