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リレーエッセイ

雪の結晶

東京都立産業技術研究センター 佐藤 健二

佐藤 健二 氏 この冬は雪が多く、北国の生活は大変だと思う。秋田の山中で小さいころから育ってきたので、雪に対しては、格別の思い入れがある。小学校の冬の理科の授業では、必ず、雪の結晶の観察があり、ふんわり積もった雪が綺麗な花びらのような形をしていることを知った。また、「雪のにおい」と言えば、あまりピンとこないかもしれないが、雪には、かすかではあるが、独特のにおいがある。機会があれば、雪の中に飛び込んで「におい」を感じ取ることをお勧めする。

<雪の結晶構造>

雪の結晶構造

図1 雪の結晶構造

 「雪の結晶はどんな形?」と尋ねられると、ほとんどの人は北海道の乳製品メーカのあの樹枝六花をイメージするだろう。雪の構造は六方晶(hcp)で、そのため、6角形の形態になりやすい。液体で凝固時に体積膨張するのが「水」で、冷凍庫に缶ビールを入れっぱなしにし、缶がポコンと膨らみ、凍ったビールが缶から漏れて後悔した人も多いと思う。鋳鉄の黒鉛がこの構造で、6角柱のモデル図が知られている。鋳鉄も凝固するときに黒鉛が晶出し、鉄の素地の収縮と黒鉛の膨張の相乗効果で「ひけ巣」が少なくなると。

 水はH2Oで、この分子を原子モデルのような球と考えると、酸素の部分を球にした6角形の構造になると漠然と思う。それで納得してはいけない。水は水素と酸素が104°(120°ではない)の角度で結合している。「それじゃ、水素はどこに来るの?」という単純な疑問が出てくる。さらに水素のイオン半径は酸素よりも若干大きい。まだ、私自身は充分理解していないが、図1のような雪の結晶モデル1)で、このような構造になっている。

 北大の中谷宇吉郎先生は、雪が成長するときの温度と氷の過飽和度(水蒸気量)の関係を調べた中谷ダイヤグラムを発表された。私が一番好きな樹枝六花は-15℃付近で110~140%の過飽和度で成長する。雪にはいろいろな形態があり、最近読んだ「雪の結晶図鑑」では、8大分類、 39中分類、121小分類に分けている。この本には、中谷先生が手がけられなかった-25℃以下の温度での結晶の偏光顕微鏡写真が掲載されている(図2)。同じ形態の結晶でもそれぞれ違っていることが良く解る。

図2 いろいろな雪の結晶

 中谷先生の「雪は天から送られた手紙である」という有名な言葉があるが、雪の形態を見れば、その生成・成長条件を知ることができるということである。不良や欠陥対策のため、普段から顕微鏡で組織観察を行っている「鋳物屋」の私にとって本当に胸に染みる言葉である。また、「雪には同じ結晶は二つとない」と言われれば、なるほどと納得してしまう。形態的には同じように見えるが、サイズを含め、全く同じものはない。

 アルミニウム合金ダイカストはJIS規格内で様々な不純物元素を含むため、凝固条件によって様々な金属間化合物が晶出する。この形態を観察し、「この組織は湯から送られた手紙である」と、いつか言えるようになれれば良いと思う。

参考文献: 1) 菊池勝弘、梶川正弘:「雪の結晶図鑑」、北海道新聞社、(2011)