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リレーエッセイ

言葉を伝える

有限会社日下レアメタル研究所 鹿毛 秀彦

鹿毛 秀彦 2012年、2月26日(日本時間27日)ハリウッドのコダックセンターで映画界最大の祭典、第84回のアカデミー賞の授賞式があった。「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」を演じたメリル・ストリーブが主演女優賞に輝き話題となった。
 先日読んだ日経新聞の春秋欄に興味深い話が載っていた。新聞記者がサッチャー首相に「・・・・の感想はどうですか」と尋ねた。「感想=“思い”など聞くな」と。そして「言葉とは“考え”であり、人の意思を表現し実行に移行させる手段である」と続けて「言葉に実行が伴わなければ、発言者に留まらず聞いた人にも災いをもたらすだろう」と。
 表面しか理解できず、その重要さや実体が分からずイメージだけで使っている日本語や外来語が多くなりつつある。今、パソコン無しでは仕事が出来ないが、いろいろな言葉が外来語のように平気で飛び交っている。話し手と聞き手で、その言葉の理解度が異なり、意味が伝わらず、十分な意思疎通ができない事も時として起こる。「言いぱなし」、「やりっぱなし」状態も多い。TVでは『マッチ,ポンプ』なことも平気で言い放つ国のリーダーを見るにつけ、がっかりすることが多い。この特技が政治家の資質 (分かっていても政治は頭数がそろわねば何も出来ない) として必要らしいが、一般にも波及し、重大な事を感情で話す。それをマスコミが取り上げ、コンセンサスであるかのように活字や電波で垂れ流しにしている。時が経たないとどうにも建設的な話しになりそうも無い。フラストレーションの溜まるこの頃である。

 さて、ホームページ(HP)「鋳物用語解体新書」のコーナーを始めて、毎月毎月回を重ね今年の2月で41回となった。途中パスした月もあるので、凡そまる4年経ったわけだ。「良く続いたものだ」と振り返るが、「もうそんなに経ったのか」とも思う。このコーナーの発端は5年前の支部の懇親会でのこと「 “ダライ粉”の語源を知っていますか?」との問いかけだ。「切粉のことだろうが、違うのだろうか?」、「どうしてそう言われているのか?」、「“ダライ”って何のことだろう?」など居合わせた20余名がそれぞれに自信なさそうに、普段何気なく使っているこの言葉に疑問を持ったようだ。全国大会で「鋳物用語クイズ」を企画してはどうか、皆で今の内に鋳物用語を見直そうとの機運が高まった。その流れを汲んで「鋳物用語解体新書」のカテゴリーをHP上に企画した。第一回目は「枯らし」を当時支部長の岡田氏からの投稿であった。その後、事務局の野口さんやキャステックの富澤さんを初め多くの会員の方々のご協力を得て、「おしゃか、ずんべ、ねこ、だぼ、はすり、・・・・」などが印象に残っている。ここまでやってこられたことを皆様に感謝!感謝!
 言葉は人により理解度が異なるのは当然である。ものづくりで標準化が進むと「分かった積もり」が積もり積もって、もともとの意味が分からなくなる。それを埋めようともがいて来た。すると鋳物はいろいろな事を教えてくれた。その事の一部でも後継にバトンタッチし出来たらと思っている。
 そういえば入社して36年経った。生まれて60年経った。昨日のことのように思える。初めと今は分かるが、途中が長すぎて思い出せない。つまり忘れている。いやスリープ状態なのだろう。何かの機会に思い出すので血になり肉になっているのだろう。年月を消化して今の自分が出来ている。今そしてこれから、役に立つかどうかは周りが判断する事だろう。しかし、自分はいつも役立っているとの思い入れが強い。強すぎると老害の何物でもないのだが、それに気付かず、あちこちで事故が発生させているかも知れない。賞味期間中にこれまで鋳物で学んだものを残したいものである。そういう時期に来ていることを日々実感している。今年ももう4月、東京は桜の花びらが舞い、川面や湖面に花いかだが出来ている。一年があっという間に過ぎてゆく。時間に追い越されつつの日々でもある。