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リレーエッセイ

大学で金属工学を学んで

東京工業大学大学院
理工学研究科 材料工学専攻 里・小林研究室
修士二年 千々岩 大志

千々岩 大志 私が大学受験を意識し始めた高校二年生の頃、様々なメディアで「マテリアル」という単語をよく耳にするようになりました。「機械技術の可能域を拡げるのは新しい材料」、「新素材が世界を変える」等、詳しい文言は忘れてしまいましたが、世の中にあまり注目されていなかった材料という分野がにわかに注目され始めた時期だと思います。進路について悩んでいた僕はこのマテリアル、新素材という響きに惹かれて材料系の分野に進学することに決めました。しかし当時私が考えていた格好良い素材というのは衝撃吸収材などの有機材料やカーボンなどの無機材料で、金属には全く興味を持っていませんでした。もっと言えば金属材料に何か特別な知識が使われているとは考えておらず、溶かして固めればそれで使える古臭い材料だと思っていました。周りの人々の反応も似たようなもので、現在でも私の友人や親戚に大学で何を学んでいるのかと訊かれたときに「金属」と答えると、怪訝な顔で「金属の何を学ぶの」と返されます。
 当然ながら大学に入学した後にその認識を大きく改めることになり、学科説明会で金属分野の学術性と重要性を知った私は、受けた印象に導かれるままに金属工学科に所属することを決めていました。

 金属工学科、そして研究室に所属している間に金属に関する多くのことを学びました。ある工業製品に対して特性の違う合金が複数使われていること、その合金の特性を決めるのに無数の要素が絡んでいることなど、その要素の解明に長い研究の歴史が存在すること、金属は私の想像を遥かに超えて複雑で興味深い分野でした。
 また、現在所属している研究室では実験用試料の作製過程で自ら鋳造することが多々あります。私もアルミニウムベースの合金を研究テーマに扱っているので何度か鋳造を経験したのですが、バーナーと溶解炉によって高温になった部屋の中で作業着を着込み工具を手に取る様は、研究室と言うよりは工場と表現したほうがしっくりきます。このような一種の泥臭さこそ私が高校生の頃金属に対して抱いていたイメージですが、この鋳造作業の中に計算された多数の要素が込められていることを知った現在では、出来上がった鋳塊を鋳造技術の塊のように感じます。

 金属という分野に関して世の中の人が持つ一般的イメージは私が大学に入学する前に抱いていたものと大差なく、そしてそれは今後も変わらないのではないかと思います。しかし、産業を影に日向に支えてきたのは金属ですし、金属は私たちの生活に欠かせないものです。今後も金属が世の中に対して果たす役割は昔と同等、あるいはそれ以上だと信じています。
 来年から社会人となる私は様々な経歴を持つ多くの人々と出会うことになるでしょう。もし学生時代に何を学んでいたのかと問われたら、胸を張って堂々と「金属です」と答えたいと思っています。