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リレーエッセイ

続々 昔の記憶

(株)キャデット 代表取締役
橋 本 一 朗

 カメラを片手に、暑い都会を抜け出した。小淵沢から小海線に乗り換える。小さな列車は、甲州から信州へと向かう。行く先は山梨と長野にまたがる八ヶ岳高原。名物はキャベツ。でも目的は違う。そう、SLの撮影だ。

 野辺山駅から歩き始める。国鉄の線路最高地点(海抜1375m)の表示を過ぎると、小川にかかる小さな橋の向こうには雄大な八ヶ岳連峰。その麓に敷かれた1本の鉄路。来た来た。小さなSLが小さな貨車をひいて。気持ちが昂る。「胸がときめく」。夢中でシャッターを切る。うまく撮れたかなあ。時は1968年8月。「初陣」。

それから約45年。
 国鉄はJRに変わり、写真も白黒からカラーに、フィルムからデジタルになった。SLは去り、今の小海線には「ディーゼルハイブリッド列車」が走る。


みんな昔と変わってしまった?
 とんでもない。あの雄大な自然「八ヶ岳連峰」は変わらず、堂々とそびえ立つ。その八ヶ岳連峰を、そして、1枚の写真を見る度に思い出す。「初陣」の時の「胸のときめき」を。この「ときめき」こそ、僕にとって忘れられない、そして常に心の片隅に抱いている偉大な「昔の記憶」である。(終)