会員向け情報

リレーエッセイ

我が家の猫

埼玉大学名誉教授
加藤 寛

 我が家では猫を2匹飼っています。「ミルキー」と「クロ」。猫達の絵を添付図に示します。

 雌猫のミルキーはペットショップの無料配布コーナーから子ども達と女房が持ち帰りました。茶色と白の縞模様の実にかわいらしい子猫だったので、「ミルキー」と名付けられました。雄猫のクロは、と言えば、誠に数奇な運命を持った猫です。もともとこの猫は息子が通っていた中学校に棲みついていました。息子の担任の先生が、「誰かこの子猫をもらってくれないか」と生徒たちに声を掛けたとき、何を思ったのか、息子が手を挙げてしまいました。しかし、我が家にはすでに雌猫のミルキーが居て雄猫と一緒にしたら子猫を生んで大変なので、女房は息子に「雌猫じゃないとダメよ」と釘を刺しました。すると先生が「雌猫です」と断言されたので、息子は嬉々として子猫を我が家に連れてきました。しかし、子猫の股間をよく見ると、小さな突起物があるではないですか。全く、先生の言うこともあてにはならない、と言っても後の祭りで、結局、飼うことになりました。このためか、子猫に名前を付けるのをすっかり忘れていました。ところが、貰ってきたこの子猫は、目ヤニは出すわ、下痢はするわ、前足は怪我をしているわ、の状態で、女房があわてて近くの藤田動物病院に治療に連れて行きました。病院の受付で診察券を作る際に「猫ちゃんの名前は何ですか」と聞かれ、女房は咄嗟に「クロです」。これ以降、黒毛の子猫の名前は「クロ」となりました。


図 ミルキー(左)とクロ(右)の絵

 ミルキーとクロが我が家に来てからすでに17年が経過しました。人間の年齢に換算したら優に80歳を過ぎており、筆者の年齢をはるかに過ぎた老猫です。その間、ミルキーはあと数か月の余命です、と言われた大病を経験したにも関わらず、その後は特に目立った病気もせずに今日まで来ています。おかげで現在では下腹を引きずりながら歩き回っています。クロも、当初の絶望的な状態から奇跡的に回復すると、その後は特に目立った病気もせずに来ました。しかし、ここ数年、食べても食べても太らず、次第に痩せていき、最大5 kgあった体重が2.5 kgを切るまでになってしまいました。これはおかしい、ということで再び藤田動物病院で診てもらうと、内臓に異常が見られる、と言われ、毎日3回、薬を飲ませる羽目になりました。多分、幼い頃の過酷な生活環境が影響したのでしょう。その後、投薬のせいで次第に体調も回復してきて薬の種類や回数は減ってはきているのですが、まだ、完治するには至っていません。多分、この状況はずっと続いて行くでしょう。毎週クロを動物病院に連れて行くため、治療代がばかになりません。

 ところで、猫と言えば、家の鼠を取ることが仕事です。また、小鳥やトカゲを捕まえては持って帰って困らせる、との話も良く耳にします。しかし我が家の猫達は、と言えば、屋内猫として育ってきたせいか、あまり鳥や動物には興味がないようです。おかげで、一度も鼠を捕まえてきたことはありません。また、窓際でのんびりと日向ぼっこをしていて、庭に小鳥が飛んできて庭土を突っつき始めると興味深げに見入っていますが、飛びかかって捉えようとはしません。まして、カラスでも来ようものなら、怖がって家の奥に逃げ込んでしまいます。どうも猫達の教育を間違ったようです。

 さて、野良猫か飼い猫かは分からないのですが、ミルキーそっくりの茶毛の猫と、クロそっくりの黒毛の猫がときどき我が家の庭を散歩しています。最初、庭先にこれらの猫を見たとき、咄嗟に、我が家の猫が家出したか、と慌てました。そう言えば、ミルキーが若い頃、何時も家の外に逃げ出そうと機会を狙っていて、玄関に誰か人が近づくと、そっと玄関脇に身を潜めていました。時々、不用意にドアを開け、ミルキーやクロが外に逃げ出すことも一度や二度ではありませんでした。逃げる時の猫達の動きは実に素早いものでした。ミルキーなどは最近になっても外に出たがるのですが、さすがに往年の機敏さがなくなり、庭に逃げ出したとしてもすぐに捕まってしまいます。このようなわけで、当初、茶毛や黒毛の猫が庭先を歩いているのを見たときなど、ギクッとしたものですが、最近ではこの光景にも慣れてきました。ただ、先日、ミルキーが昼寝をしていたとき、例の茶毛の猫が縁側に上がり込み、室内のミルキーを覗き込んでいるのにはビックリしました。まさに瓜二つの二匹がガラス戸を境に鏡像関係となっていました。が、ミルキーは、何事もなく寝入っていました。多分、今晩のごちそうの夢でも見ていたのでしょう。

 話は変わりますが、建設現場で、猫だから通れるような狭い足場をねこ足場といい、そこを通ることのできる荷物運搬用の一輪車をねこ車と行っていました。鋳造現場では「ねこ車」が詰まって「ねこ」といい、最近まで用いられてきたようです。[出展:鋳造工学会関東支部ホームページ、鋳物用語解体新書] 我が家の猫達では、ねこが通れるような路でも腹が引っ掛かってしまい、立ち往生してしまうことでしょう。