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リレーエッセイ

ジャガイモの実とビールのホップの話

ものつくり大学  鈴木 克美 氏

 「ジャガイモの実」をご存じでしょうか?写真右は10年前に住んでいた掛川の温泉に陳列してあったものですが、青いミニトマトにそっくりな形がめずらしくて新鮮な驚きでした。確かに芋だって花が咲けば実がなるのは納得できますが、農家でもめずらしいとのこと。調べてみると、男爵やメークインなどの品種では通常花が咲いても実がつかず、「雄性不稔」といって、花粉から子供になりにくいためですが、稀に結実するようです。トマトも同じ仲間とは驚きですが、なるほど形が良く似ており、食用になるようです。最近話題のスギ花粉の無花粉化の品種改良研究に応用されているようですが、年を重ねても、なお新鮮な出会いがあるものです。

ジャガイモの実

 また存在は知っていても普段は目にせず、本物を見て感激することがあります。本誌第38回で紹介しましたミュンヘンのビール祭り「オクトーバーフェスト」で馬車に山積みのビール原料「ホップ」を手にした時には思わず現物を噛みしめてしまいました。(写真右)ビールはホップのおかげで独特の苦みと風味が味わえるわけで、脇役でも主役を引きたてる存在です。また開催されるバイエルン州では「ビール純粋令」という大麦と水とホップだけで造らなければならない法律があります。一方、日本ではビールと称するものの、気になる脇役に「コンスターチ」を添加しているものが多く、鋳物屋の雑念が湧き、生型の添加剤がフラッシュバックしてしまい、味がトーンダウンするのは私だけでしょうか。

 ドイツではジャガイモとビールは主食のような存在ですが、ジャガイモをビールと一緒に口に入れるとすこぶるうまいのはなぜだろうか。それはドイツ産のジャガイモは数多くの種類があり、日本の男爵やメークインとはまったく違う品種で、ほくほく感がソーセージやビールにぴったり合うためかと思いますが、ドイツ産の生鮮ジャガイモはすべて植物検疫法により、日本には輸入されておらず、現地でしか味わえないのが残念です。

ホップ

 日常、何気なしに見ているものや、見慣れないもの、未体験なものに出会い、ふと疑問を抱くことがありますが、その本質が見えてくると快感を得るのは仕事や研究でも共通するものがあります。企業から大学に移り、若者と会話していると、つくづく時代の変化に驚かされることが多いものです。「コークスと石灰石を高炉に投入」といってもコークスを知らず、それは「石炭を蒸し焼き」と説明しても石炭を見たことがない学生には現物で見せるしかありません。地方出身学生が「豆炭」や「練炭」の話を持ち出すと周囲の学生が「何それ、知らないなあ」とやりとりするのを横目でニコリと聞きつつ、日常、学生に伝わらない言葉、例えば「火箸」や「一斗缶」など沢山あるだろうなと振り返ってしまいました。研究でダイカストの給湯スリーブを半割するので、丁度「八橋」形状にすると説明したら、首をかしげるので、「ニッキの味がする半円筒の焼き菓子を知らないの」と聞くと、八橋は三角でしょう?と主張してピンときました。なるほど最近は柔らかい生八橋が主流で八橋を見たことが無いから例えが悪いと反省すると、追い打ちを掛けるように「先生、今はニッキでなく、シナモンと言います」と教えられ、苦笑させられました。