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知的財産権概説 その3
今回は仕事の都合が多少あって、(多少とは多いのか少ないのかどちらか?と聞くのは野暮である。「花落(はなおちること)知(しりぬ)多少(たしょうぞ)《中国詩人、孟浩然の「春曉」の一節》」高等学校の漢文の教科書をよく読むこと。また、野暮と化物は箱根より東には住まないのである。したがって我が関東支部にもいない筈である。そろそろ春で、この漢詩の起句の気分になる頃である。春眠には漱石の『夢十夜』がふさわしいが、これはまた別の話の枕に使う予定である)特許をよく調べた。それは、「無孔性ダイカスト」である。「PF法」の方が通りが良いかもしれないが、世の説では日軽金の三木功氏の発明ということになっているらしい。新山先生の著書「金属の凝固を知る」にもそう書いてある。
そこで、慎重を期してモトネタを探してみた。この技術は特許の国際分類に一項目設けてあって、専門的になるがB22D17/00Aという記号が付いている。この分野で古い特許を調べると、三木氏は昭和45年(1970)7月17日に「実全昭45-71004」とかいう番号で、実用新案を出願し、これは「実公昭49-25687」として登録されている。ところが、この請求の範囲(いわゆるクレーム)は、「~を特長とする酸素置換ダイカスト鋳造装置」であって、酸素を使うのは既知のこととしている。実際にこの後に出願した別の特許(特願昭46-89905)の中で、『特許第585873(特公昭45-10481、無孔性ダイカスト)によって知られているとおりである』と明記されている。(余談であるが、このころ、帝国ダイカスト工業(株)の中川八代吉氏も装置に関する実用新案を出願している。三木方式の特徴はガスの入口をスリーブに設けた点であろうか)これではそのモトを調べる必要があるわけで、このうすらぼけの春の日に(実際は暖冬でビルのなかはクーラーが利いていて、従って二酸化炭素を盛んに排出しているビルの中にいる私はぼけてない、と思う)検索してみると、前出の「特公昭45-10481」としてシユレード・フレツド・ラツトケ、サミエル・エドワード・エツク 二人の発明で、出願はインターナシヨナル レツド・ジンク・リサーチ・オーガナイゼーシヨン・インコーポレイテツドである。(公報では促音を小さく書いてないのでそのとおりにタイプするのは結構面倒であることを今回初めて知った。ILZRO法とはこのことか?!)1966年6月30日優先権主張、というのがある。この出願の代理人は、中村澗之助(澗の門構えの中は日である。ついでに、漢字の読みは「カン」となっているが、実際にどう呼ぶのか私は知らない)となっているが、中『松』澗之助 の間違いか?それならば、なんと、あのダクタイル鋳鉄の特許出願を扱った弁理士殿である。
ところで、このクレームは「~の後に、キャビティに反応性気体を満たして鋳造する~」となっているので、しつこく調べるともう一つ、特公昭43-26601(特願昭41-7206、昭和41年2月9日、ジヨン・ニコラス・レデイング、マービン・ラルフ・ポスウエル(ポかボか目がかすんでよく読めない、出願はダウ・ケミカル)というのがあった。これにも「鋳型の空洞内を溶融した金属と反応する雰囲気としておく~」とある。これも特許になっているので、同じことが重複して特許になったのか、アレアレ??、と思ってよく読むと、ダウ・ケミカルのクレームは、「鋳型を溶融金属中に漬ける」というのに対してILZROのクレームは「気体でキャビティを洗い、空気を追い出す」ということになっているので、前提が異なることになり、ナルホド一件落着である。 ここまで書いて、鋳造工学2000年12月号にご本人がいきさつを書かれているのを見つけたのだから、鉄鋳物しか知らない私がアホだった。このヒマでない時に余分な仕事をしたような気がして、ヤーメタ!と言いたいところだが、公開番号などは必要な訳だから、と我と我が身を慰めて調査書類をまとめているつらさをお察しいただきたい。トホホ、である。いずれにしてもアイデアを実現する装置を作ったのは三木氏である。三木氏は偉い。左甚五郎も偉い。運慶はもっと偉い。なぜ運慶かって?「夢十夜」に出てくるのである。