会員向け情報

会員だより

アンチモンの影響

藤原技研(有) 藤原 宏司
E-mail: organic-fujiwara@syd.odn.ne.jp

他支部会員からの便り
 関西支部の藤原宏司氏から「アンチモンの影響」と題した興味深いお便りを頂いた。一種の「逆チル」の原因を調べたらアンチモン(Sb)が容疑因子として浮かび上がった。その経緯を説明された内容です。読者の方で「私も経験している。」「そんな事は考えられない。」「逆チル顕微鏡写真は、一般的には笹の葉状なのですが・・・・・」など感想や意見などお寄せ下さい。

「アンチモンの影響」
(1)問題発生:「FCD-450の製品でタップ加工が出来ない。」と2社から相談を受けた。
(2)原因追求:当該品の顕微鏡組織観察を実施。レデブライト(図1)を発見、原因は一種の逆チルであることが分かった。では、なぜこのような組織が発生したのかについて調べた。

タップが立たなかった箇所の顕微鏡組織
図1 問題の製品(FCD450相当)、タップが立たなかった箇所の顕微鏡組織

(3)調査(1):化学組成
①まず成分を調べた。元湯のS値は0.015~0.020%と一般的な値であった。
②次にその他主要元素(C,Si,,Mn,P,Mg)の含有量を調べたが通常の範囲内であった。

このことから、原材料の鉄源に含まれる微量随伴元素(トランプエレメント)の影響ではないかと考え、リターン材を使用せず、銑鉄とSS材(新断屑)のみで溶湯をつくり(バージン溶解)、球状化処理と接種後、製品とYブロックに鋳込んだ。結果は、Yブロックの中央部位(凝固の遅い部分)に図2のようなチルが発生した。この対策(バージン溶解)では解決に至らなかった。

バージン溶解溶湯を鋳込んだYブロック平行部中央に現れたチル組織
図2 バージン溶解溶湯を鋳込んだYブロック平行部中央に現れたチル組織

(4)調査(2):アンチモン(Sb)の侵入
この工場ではFCも製造し、一部の製品にアンチモンを含有接種剤を使用している。そこで問題のFCD製品、対策品(バージン溶解品)のSbを分析、微量検出された。当然のことだが、球状化阻害元素であるSbはこのFCD製造工程では一切使われていない。では、どこからSbが入るのだろうか?

(5)調査(3):アンチモン(Sb)の侵入経路
FC製造時、強度や硬さを上げる目的で一部のFC製品にSbを添加しているので、これが、FCDに混入していると考えられるが、FCとFCDリターン材は混入危険がないように十分に管理されていた。また、金属SbやSb含有接種剤の添加は取鍋で行い、同じ取鍋をFCD製造過程で使用することも無い。

(6)調査(4):炉壁及び取鍋耐火物から
Sbの侵入が炉壁及び取鍋等の耐火物から来るのではないかと考え、これらの耐火物をすべて張替え,バージン溶解にてFCD-450を製造した。結果、逆チル無しの良品が得られた。

(7)まとめ
以上の調査から今回の原因は、耐火物にトラップされていたアンチモン(Sb)が、溶湯中に侵入し最終凝固部に共晶炭化物(レデブライト、図1、2参照)を誘発させた。これにより、タップの立たない製品が出来てしまったと考えられる。

<対策>:
アンチモン(Sb)(融点630.7℃、原子番号51、原子量121.75g、密度(24℃)6.69g/cc、沸1635℃)は、沸点が高いので再溶融しても溶湯中に残る可能性が高い。また、炉壁や取鍋の耐火材中に何らかの形態で残ることも分かった。これらの鋳物の中心(最終凝固部)付近に逆チル状に炭化物を発生させる。これは、凝固過程でSbが残湯中に濃縮して行くためはないかと思われる。少量のSb(0.03%)は、FCのパーライト安定化に使われるが、多くなると共晶炭化物を最終凝固部付近に発生させると考えられる。したがって、Sbの使用には、これらの事も考えて使用することが望ましい。さらに、有害元素にリストアップされているので、その利用はできるだけ避けたいものである。

<その他>:
本紹介事例以外に鋳造工場で発生したアンチモン(Sb)による同様の不具合をまとめる。
(A)このような逆チルは、溶解方法(キュポラ、電気炉など)や材質(FC、FCD)に関係なく、
発生している。 
(B)アンチモン(Sb)の混入経路は、①金属SbやSb含有FC用接種剤、②一部の電磁鋼板、
③協力会社の不具合鋳造品、④他社製造の鋳造品のダライ粉などが上げられる。
特に③④を一部使って溶解した場合、Sbが微量なため一般の分析では検出できず、逆チルの原因
究明までに相当の時間と労力を必要とした。

(C)FC250、30φ試験丸棒で発生した逆チルを以下に示した。
30φ引張り試験片 (A) 30φ引張り試験片中心部に光る部分が観察される。 中央部の拡大 (B)中央部の拡大 
     
顕微鏡組織 (C)試料(A)の外側から中央に向けての顕微鏡組織、外側は正常な組織であるが中央に逆チルが観察される。

黒皮直下 中央部