誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

セミソリッドダイカスト

第3回「最新技術のキーポイント」
(株)東京理化工業所 菊池政男

4.レオキャスト法の技術開発

 セミソリッドダイカストは20世紀半ばから半凝固(レオキャスト法)→半溶融(チクソキャスト法)→半凝固(レオキャスト法)と変遷して21世紀に入っている。初期にはレオキャスト法の問題点の多さから、一時消えかけたが、チクソキャスト法の実用化により定着するかにみえたが、チクソビレットのコスト高、入手における困難さから再度レオキャスト法によるセミソリッドダイカストが検討されているというのが現在の動向である。
 しかし、すでに紹介した1990年代後半に開発されたレオキャストはスラリー製造サイクルが長い、製造条件が狭い、材料がAC4C(A356)に限定、設置スペースが広い、設備費が高いなどの問題がある。今後、セミソリッドダイカストが発展していくには、低コストで安定して良質なセミソリッドスラリーを得ることが必要である。
 良質なセミソリッドスラリーは微細で粒状な結晶を有することである。 セミソリッドダイカストにおいても、この微細で独立した粒状の結晶であることにより良好な流動性・成形性が確保され、高品位な製品品質(機械的性質、耐圧性など)が得られる。 セミソリッドダイカストは凝固過程の組織制御(結晶核の発生数、サイズ、結晶の成長形態)によりその性状が変化する。これらは金属溶湯が冷却され、凝固する時の過冷度(冷却速度)により決定されるといわれている。その概念を図14に示す。この概念図は、AC4C(A356)を用いて注湯温度620℃における冷却速度とセミソリッドスラリー性状の関係を示したものである。 この図からわかるように冷却速度(CR)を大きくすると結晶核の発生数が増え、微細化するが、結晶成長は樹脂状となる、チクソキャスト法で使われたチクソビレット(連鋳棒)は大きな冷却能力を持つ鋳型部で大きな冷却速度により数多く発生した結晶核から樹脂状に発達する樹脂状晶の枝を強力な電磁攪拌により分断し独立した結晶とし、凝固させたものである。一方、これまでのレオキャスト法では、チクソビレット製造のような強力な攪拌が行えず、大きな冷却能力を持つ鋳型での凝固が進行し、鋳型壁で凝固セルをつくってしまう問題があり、やもうえず冷却能力を小さくし長時間かけ、セミソリッドスラリーを作製していた。しかし、ダイカストは他の鋳物と比較してサイクルタイムが非常に短く生産性の高い製法である。セミソリッドダイカストでも同様である。したがって、これまでのレオキャスト法ではサイクルタイムに合わせるための複数のセミソリドスラリー作製ステージを持ち対応するものもあった。

 21世紀に入り上述したそれまでに開発されたレオキャスト法の問題点を対応すべく、いくつかの方法が開発されている。その方法の概略を以下に紹介する。

(1)SSR法(Semi-Solid-Rheocasting)【2002年に米国のIdraprince社が開発】
溶湯中に銅製の冷却棒を回転しながら浸せきし、微細なセミソリッドスラリーを作製する方法で、その原理を図1512)に示す。

(2)ナノキャスト法【2003年に韓国の延世大学と(株)ナノキャストが開発】
電磁攪拌装置内のステンレス製カップに溶湯を注湯し、急速に冷却することで核生成数を多くして、極めて短時間にセミソリッドスラリーを作製する。これまでのセミソリッドダイカスト法(100μm以上)に比較して、初のα晶の粒径が小さいこと(50μm程度)、多種の合金に対応できること、注湯温度巾が広いこと、装置がコンパクトで安価なことを特徴としている。その概要を図1614)に示す。

(3)ASCT法(Advanced-Semisolid-Casting-Technology)【2003年に本田技研工業(株)と本田エンジニアリング(株)が開発】
自転・公転する冷却棒を溶湯中に浸せきして初晶を晶出させ、粘度を測定しながら所定の固相率に到達したセミソリッドスラリーをダイカストマシンの射出スリーブに投入しダイカストする。その概要を図1715)に示す。

(4)カップ・自己攪拌法【2005年に東北大学と(株)ナノキャストが開発】
ナノキャスト法を発展させた方法として、電磁攪拌などの外力による攪拌ではなく、カップに溶湯を注湯する時の位置エネルギーを利用した自己攪拌によりナノキャスト法と同等なセミソリッドスラリーを作製する。 ナノキャスト法より低価格でのセミソリッドダイカスト生産が可能な方法である。

5.チクソキャスト用ビレット製造開発

 上記した様に、セミソリッドダイカストがレオキャスト法で実用化が推進される傾向の中、チクソキャスト用ビレットはダイカストだけでなく鍛造、押出など他の製法での活用も検討でき、そういう観点でチクソキャスト用ビレット製造についての開発も進められている。その中で代表的なものを紹介する。

(1)電磁攪拌法   
現在チクソビレットとして量産されている唯一の方法。アルミニウム合金が対象で、連続鋳造鋳型内で電磁攪拌を行い、直径が3~6インチのビレットを製造している。その方法を図1816)に示す。

(2)傾斜冷却板法  
千葉工業大学、(株)アーレスティが開発した方法。トイ状の傾斜冷却板上に液相線温度直上の低温溶湯を流すことで生成した微細粒状化した初晶を有するスラリーを冷却板下流のタンディシュ内で徐冷することで粒状に成長させ、連続鋳造することでチクソビレットを製造する。その概要を図1917)に示す。

(3)PID法(Pressure Ingot Die-Casting)  
O.Herviewらが提唱している方法。マグネシウム合金をダイカストした時の押湯を通常より多くし、それを切断してチクソビレットとして再加熱してダイカストする方法。材料の歩留りを向上でき、汎用性、経済性に優れた方法として注目されている。その概要を図2018)に示す。

(4)SIMA法(Strain Induced Melt Activated)19)
材料に圧延や押出しで加工を加え、ひずみを導入し、半溶融状態までの再加熱で固相粒子が分離・球状化して、良好なスラリーになることを利用した方法。SIMA法は粒状晶をつくりにくい鉄系や、ステンレス系の高融点金属を対象に開発が行われている。アルミニウム合金でもA2024、A6061などの展伸用合金や、鋳造用のA356合金、Mg合金ではAZ91などで研究が行われている。

(5)SEED法(Swirled-Enthalpy-Equilibration Device)
ALCANが開発した方法。未凝固の液相を排出する穴を底部に有する容器に溶湯を注湯し急速に冷却させると同時に容器を揺動させ、固相率35~40%のセミソリッド状にする。その後5~10秒後に凝固の最も遅い中央部分の液相を排出させて、均質なスラリーを製造する方法である。その概要を図2120)に示す。

参考文献
12)Die Casting Engineer:July、(2002),P20
13)長澤 理,飯島 淳一,小田 広知,菊池 政男 :2004年日本ダイカスト会議論文集,(2004),P224
14)板村 正行,洪 俊杓,金 宰民:鋳造工学 Vol77,(2005),8,P539
15)M.Yamazaki,A.Takai,O.murakami,K.Kawabata,H.Tanikawa,Q.Ito,K.kuroki :2004 SAE World Congress,(2004)
16)Niedermasier,Langgartner,J.,Hirt,G.&Niedick,I:proc. of the 5th Intern. Conference on the Semi-Solid Processing of Alloys and Composites,(1998),P407~414
17)茂木 徹一,和田 典也:2004年日本ダイカスト会議論文集,(2004),P169
18)O.Herview,J.Collet:Proc. of the 4th Intern. Conference on the Semi-Solid Processing of Alloys and Composites,ed. by D.H.Kirkwood and P.kapranos,The Institute of Materials,(1996),P283
19)Flemings,M.C:Metall.Trans.22A,(1991),P957 ~981
20)ALCAN・SEEDカタログ,(2004)