誰でも分かる技術
銅合金鋳物の材質と基礎知識
3-1 「銅合金鋳物とは」
1. 3 実用合金と最近JISに規定された鉛フリー銅合金鋳物
銅合金鋳物は青銅鋳物、黄銅鋳物、アルミニウム青銅鋳物ならびに純銅鋳物に大別されます。金属学的に主要成分が錫、亜鉛、アルミニウムである銅合金という意味です。日本では銅-錫合金は青銅、銅-亜鉛合金は黄銅と厳しく区別しております。一方、青銅と言う言葉は、二つの意味を有しております。狭義には錫を含んだ合金を意味し、広義には銅合金を意味します。上記の例で言うと青銅鋳物は錫入り合金であり、アルミニウム青銅における青銅は、錫を含有せず、広義の銅合金を意味しています。すなわちアルミニウム青銅は、アルミニウム含有銅合金です。世界的にこの二つの意味で使われています。ところで青銅鋳物の代表的実用合金は5%錫・5%亜鉛・5%鉛のCu-5Sn-5Zn-5Pb合金(85/5/5/5)で、日本ではJISに規定されるCAC406合金です。この名前に決まりましたのは1997年であり、新しい呼称です。それ以前はBC6と呼ばれていました。BCはBronze Casting の略称です。日本では代表的な青銅合金鋳物として古くからこの名前で呼ばれて(英語名はbronze)きました。ところで、アメリカではこの85/5/5/5合金の規格は、red brassあるいはleaded red brassと呼ばれ、低亜鉛のCu-Sn-Zn(-Pb)合金は黄銅(brass)に分類されています。日本の黄銅はyellow brassと呼ばれています。錫入り銅合金はtin bronze、鉛が入ればleaded tin bronzeと呼ばれ、比較的錫量が高く、亜鉛は添加されないか比較的低い場合の合金鋳物です。ちなみに英国では85/5/5/5合金はleaded gun metal(鉛入り砲金)です。大砲に青銅鋳物を使っていた伝統からか砲金(gun metal)の名称を使っています。英語名では日本の呼び方が金属学的には正しいと思われますが、古い歴史を有する銅合金ならではの各国それぞれの歴史を引きずり慣用されている名称が異なっています。それだけに国際的やりとりの時、記号で示す場合は誤解がないのですが、bronzeかbrassかは誤解しやすいので注意しましょう。
JIS規格には黄銅鋳物・高力黄銅鋳物・青銅鋳物・りん青銅鋳物・アルミニウム青銅鋳物)・シルジン青銅鋳物は1954年に、鉛青銅鋳物は1958年に制定され、第二次大戦後の経済発展前にほぼ現在の形を整えています。このうち高力黄銅ならびにアルミニウム青銅は古くから規定されていましたが、戦後早いうちに舶用プロペラや軸受用に新合金が開発され、需要家と協力して制定されました。そして、銅鋳物は1990年に新規に制定されました。1997年に銅合金鋳物規格として8合金の各合金規格はJIS H 5120に統合・一本化されました。銅合金鋳物記号はCAC(Copper Alloy Castings)となり、この記号の後に合金番号が付されるようになりました(第1回表1参照)。それ以前は、合金毎に規格番号を有しておりました。つまり、銅合金鋳物の各合金が、鋳鉄鋳物(FC)・球状黒鉛鋳鉄鋳物(FDC)・アルミニウム合金鋳物(AC)・アルミニウムダイカスト鋳物(ADC)の大分類と同格でした。2006年2月に発効したのが鉛フリー銅合金鋳物です。
本稿では、黄銅・アルミニウム青銅・青銅の例として、黄銅鋳物・高力黄銅鋳物、アルミニウム青銅鋳物、鉛フリー銅合金鋳物について概略を述べます。なお、前述したCAC406は青銅鋳物6種として銅合金鋳物生産量の過半を占め、その中で給水器具に多く使われておりました。水中への鉛の浸出を厳しく規制する条例により、この合金鋳物が給水器具への使用が制限されるところから、その対応は銅合金鋳物業界にとりまして、業界始まって以来の歴史的な大問題として対応が講ぜられ、JIS規格として2年前に発効致しました。なお銅合金鋳物JIS規格には連続鋳造鋳物とそれ以外の(一般)鋳物の別がありますが、ここでは一般鋳物規格に沿って解説します。
黄銅鋳物(CAC200系)はCu-Zn二元合金に少量の鉛などを加えた組成範囲の広い合金で、α黄銅とα+β黄銅の別があります。α黄銅は主に装飾用に、α+β黄銅は給排水器具や導電用リンク部品など電気部品などにも使われています。近年脱亜鉛対策を講じた合金が金型鋳造法によって給排水金具に使われています。
高力黄銅鋳物(CAC300系)はCu-Zn二元合金にAl、Fe、Mnなどを添加し、強靱性・硬さ・耐摩耗性および耐海水性を改善したものです。金属組織学的にはα+β組織です。当初は舶用プロペラとして開発され、マンガン青銅(黄銅)とも言われました。これらに相当する合金は少量のMn・Fe・Alを含有するCAC301ならびに302です。CAC303ならびに304は、比較的多量のAl・Mn・Feを含有し、高い強度・硬さならびに耐摩耗性を有しています。舶用プロペラ、軸受、軸受保持器などに使われています。CAC303は引張強さ635MPa以上、伸び15%以上、CAC304は引張強さ755MPa以上、伸び12%以上が規格値として要求されています。この規格値が示すように、銅合金鋳物で高い強度・靭性を有することが判ります。低速高荷重の摺動部品、ブッシュ、ウオームギア、支承板などに使われております。
アルミニウム青銅鋳物(CAC700系)はCu-Al二元合金にFe・Ni・Mnを添加した合金です。Alを8~10%含むCu-Al合金を基本とし、これに1~3%のFeと0。1~1%のNiとMnを加えたCAC701、Alを8~10。5%含む合金にFeならびにNiを数パーセント以下に、Mnを1。5%以下に配合したCAC702ならびに703、Mn量を7~15%と多量にしてAl量を6~9%に抑えたCAC704の4種類が規格化されています。CAC702ならびにCAC703は、強度が高く耐海水性に優れるところから、それぞれ小型、大型舶用プロペラ用として広く使われております(第1回写真2参照)。また高強度・耐食性から、インペラー・バルブ・軸受など機械部品・耐食性部品に使われています。
鉛は青銅鋳物に添加され添加元素として活用されて参りました。一つは青銅合金特有の微細分散引け巣を低融点の鉛が充填することで、耐圧性を大いに改善すること(給水器具にとって耐圧性は最も重要な因子の一つ)、もう一つはバルブなど複雑形状をしている給水器具の、ネジなどの様々な切削加工を容易にする効果が非常に大きい、からです。ところが1992年に世界保険機構(WHO)が鉛の水への浸出量を水1リットル当たり0。01mg以下と規制するよう勧告致しました。我が国も10年を目途に勧告受け入れを宣言し、2003年から施行しております。写真1、2に代表的な鉛フリー銅合金鋳物給水器具として水道メータとバルブを示します。項を改めて鉛フリー銅合金鋳物の諸特性は述べますが、一般鋳物規格JISH5120、連鋳規格JISH5121、地金規格JISH2202が同時に改正され、鉛フリー銅合金鋳物が追加されました。表1に規格を示します。
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表1 新たに制定された鉛フリー銅合金鋳物規格 | |