誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

生型(その1)

2.生型に使用される材料(完)
アイメタルテクノジー㈱  佐藤和則

 生型砂の一般的構成材料は、骨材としての「けい砂」、粘結材の「ベントナイト」、添加剤の「澱粉・石炭粉」などで、これに水を加えて混練し造型に適した砂に調整されます。 3月号では「ベントナイト」までお話しました。今回は残りの添加剤について説明します。

澱粉

 生型は骨材としてけい砂,主な粘結材:「ベントナイト」で構成されているほかに、補助粘結材として「澱粉」を使用する場合があります。「澱粉」はアミロースとアミノペクチンと呼ばれる成分の混合物で、植物が葉緑体の中で光合成作用を行うことで作られるものです。使用する目的は、鋳造欠陥である「すくわれ」及び「しぼられ」などの防止と鋳型表面の安定剤です。次にその代表的目的を具体的に説明します。

  1. すくわれ系統の鋳肌不良対策:

    すくわれ傾向は、図2のように「水分凝縮層抗張力」と「曝熱応力」の相関で表されます。一般に添加剤の投入は曝熱応力を低下させるので、すくわれ傾向には良い影響を及ぼします。α澱粉(スターチ)は曝熱応力の低下と水分凝縮層抗張力の増加をもたらすので、すくわれ系統の鋳傷防止には大きな効果が期待できます。

    表1 代表的なけい砂の化学成分と強熱減量特性

    図2.添加剤の「すくわれ」傾向に及ぼす影響

  2. 表面安定性の向上:

    生型の表面安定性の良否は、鋳型表面の砂粒子のポロツキとなって現れ「砂かみ」欠陥に直結しています。澱粉を添加することによって、図3に示すように添加しない場合に比べ表面安定度(SSI)が著しく向上することが知られています。

    表1 代表的なけい砂の化学成分と強熱減量特性

    図3.澱粉添加による表面安定度の比較

  3. 造型性の向上:

    当初はあまり注目されていませんでしたが、α澱粉の添加は生型の造型性を向上させるのに役立つことが分かってきました。特にブローイングタイプの造型方式において、「型抜き」を重視して{高水分(→高CB値)}にすると→{砂詰まり不良}が発生し,「砂詰まり」を改善するために{低水分(→低CB値)}にすると→{型抜き不良}になるという矛盾に遭遇する。ここで,α澱粉を添加すると「抜型抵抗」が低下することが分かり、低水分でも「型抜き」良好な生型が得られるようになった。結果として造型性が改善されます。

  4. 無枠鋳型の型割れ防止:

    無枠鋳型の「型割れ」の問題に対しては、一般的には機械的対策で対応しています。砂で対策する場合の項目の中に①ベントナイト添加量を増す,②強度の高いベントナイトを使用する,③CB値を上げる,④α澱粉を添加するなどがあります。

 市販されている澱粉製品は多岐にわたるが、大別すると「地上澱粉」と「地下澱粉」に分けられます。「地上澱粉」とは,米,小麦粉,トウモロコシなどで、さつまいも,馬鈴薯,タピオカなどは「地下澱粉」にあたります。鋳物用として使用されている澱粉は天然澱粉の穀類(地上澱粉)が多く、中でも良いとされているのがコーンスターチ(トウモロコシ)です。最近では澱粉の化工技術が発達してきたことにより米および小麦澱粉も使用されています。

 

炭素質添加材

 鋳肌の改善などの目的で生砂に添加されます。この炭素質は,溶湯が鋳型に鋳込まれた際、還元ガスを発生し,鋳型内(鋳物になる空間)を還元性雰囲気に保ちます。炭素質の原料は数多く存在しますが鋳造工場で用いられているものは、コークス粉,黒鉛粉,石炭粉およびピッチ粉などです。石炭粉の原料である石炭は、地球上に繁殖した植物が堆積し、これが地殻の変動により地中に埋没後地熱によって天然乾留されできた物です。従って石炭の特性は,根源植物の種類によって炭素質に大きな差が生ずると云われ、生型砂に適した石炭粉の原料としては、瀝青炭でその中でも弱粘結炭が良いと云われています。成分としては揮発分が33~43%,炭素量80~85%に相当する石炭粉です。このような石炭粉は、350℃くらいから軟化し始め、450℃前後で軟化物質になる。これにより鋳型の自由度が向上して「すくわれ」防止などにも効果があるといわれています。
 生型砂に炭素粉を添加することは古くから行われており現在も使用する工場は多くあります。炭素粉の生型における役割としては(1)鋳肌の改善と焼付きの防止、(2)すくわれ系統の鋳きずの防止、(3)鋳込み後の型ばらしの改善などが上げられます。その理由については以下のように3説あります。

  1. ガスクッション説:溶湯の熱に炭素粉の揮発分がガス化し鋳型と溶湯の間にガスフィルムを形成し、これが溶湯と鋳型面との直接接触を妨げ、結果として鋳肌の改善と焼付きを防止する。
  2. 還元性雰囲気説:炭素の揮発分は主として炭素と水素などの還元性物質で構成されているため溶湯-鋳型界面は還元雰囲気となり酸化鉄の生成が抑えられ、酸化鉄と砂の反応によりできる「けい酸鉄」が引き起こす鋳肌不良や焼付きが防止される。
  3. ラストラスカーボン説:炭素粉の揮発分が溶湯-鋳型界面の高温部で熱分解してその界面に炭素膜を生成したもので、この炭素膜が溶湯と鋳型との直接接触を妨げ鋳肌を改善し焼付きを防止する。

 どの説も単独では説明しきれない事象があり実証も難しいものですが,石炭粉を始めとする炭素質の添加により鋳肌の改善が可能になります。

したがって、生型砂中の炭素分の管理が必要になります。一般的に用いられている管理方法には,強熱減量の測定があります。生型砂を乾燥し水分を飛ばした後、粉砕し、決められた量の試料(蓋付のるつぼに入れて空気との接触を避け、900℃で7分間加熱する。その後,冷まし質量を測定する。加熱前と後の試料の質量差(減量)を百分率で表したものが強熱減量です。これは,この試料中の揮発分(イグロス:石炭粉,澱粉などの有機物の還元性雰囲気下での熱分解による発生ガス分)および試料の乾燥条件では遊離しなかった水分が含まれています。強熱減量から揮発分を差し引いた量が{固定炭素}です。

 今回は生型砂に使用される材料の種類とその特徴について解説しました。次回は生型砂の調整方法と砂性質の試験評価方法について解説します。