誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

(続)ダイカスト技術の基礎(その4)

(一社)日本ダイカスト協会 技術部
西 直美
2.5 ダイカスト金型

2.5.3 ダイカスト金型の熱処理

図2-52入れ子の熱処理工程の事例
図2-53 窒化層のミクロ組織
図2-54パルスDC-PCVD法により作製したTiAlSiCNO/TiAlN/TiN多層膜のSEM像19)

 ダイカスト金型で溶湯と直接接する入れ子は,2.3.2.2(b)で述べたように焼入れ,焼戻しの熱処理を行って使用する。SKD6,61は,焼入れ性に優れているため空気焼入れが可能で,これにより熱処理による歪みや変形を軽減できる。図2-52に焼入れ及び焼戻し工程の模式図を示す。
SKD6,61は,熱伝導率が小さいので,金型表面と中心部で温度差が出やすいため,500℃付近と800℃付近の2段階で十分時間をかけて徐々に加熱する。焼入れ加熱は1000℃程度で行うが,高すぎると組織が粗大化して靭性を低下させるので,焼きが入る範囲でできるだけ低い温度に設定するのが望ましい。焼入れは,金型の変形を防止するため,一般には空冷する。しかし,冷却速度が遅すぎるとベイナイト組織となり,硬さ,靭性が低下するため注意しなければならない。
 焼入れによるマルテンサイトは硬くて脆いため,熱や変形による残留応力が発生している。また,マルテンサイトに変態しなかった残留オーステナイトが存在している。応力除去とマルテンサイト化を行うために焼戻しを行う。 500℃程度での1次焼戻しにより,残留オーステナイトのマルテンサイトかを行い,2次焼戻しにより目標の硬さに調節する。2次焼戻しは,鋳造時の高温に耐えられるため,金型の使用温度の50℃程度高めで処理される。また,必要に応じて3次焼戻しを行うことがある.

2.5.4 ダイカスト金型の表面処理18)
 金型表面に要求される機能として,耐溶損性,耐摩耗性,耐ヒートチェック性などがあるが,金型材料,熱処理の最適化だけでは充分な特性を得ることはできない。そのため,表面処理でその特性を補う場合が多い。表面処理には,拡散法,コーティングなどがある。表2-9 に代表的な表面処理と目的及び使用部位を示す。

(a)拡散法
 金型表面から元素を拡散・浸透させて表面層を改質する方法である。その主なものを以下に簡単に紹介する。
a)窒化処理 
 ダイカスト金型に最も一般的に使用される表面処理法で,硬質の窒化物を表面に生成して硬度を高くする。図2-53に窒化層のミクロ組織を示す。表面処理温度が500~600℃で金型材の変態点以下であるため,ひずみや変形が少ない。処理法には,ガス窒化,イオン窒化,ラジカル窒化,浸流窒化などがある。
b)金属浸透処理
 金属原子を金型表面から拡散・浸透させる方法で,金属セメンテーションとも呼ばれる。拡散・浸透させる金属により,クロマイジング(Cr),浸硼処理(B),浸流処理(S)などがある。また,金属粉末を添加した硼砂などを主成分とした塩浴中に2~10時間浸漬し,VCやCr(C,N)などの皮膜を形成するTRDプロセスなどもある。

(b)コーティング
 鋳造合金との反応性が少なく,硬質,熱安定性の良い被膜を金型表面に形成させる方法である。
a)PVD法
 減圧下で固体を電子ビームなどで加熱蒸発,イオン化させ被処理材に物理的に付着させて被膜を形成する方法。PVDは500℃以下の処理温度であるため,被処理材の変形が起こりにくい。TiC,TiN,CrNなどコーティングがよく使用される。密着性はCVDに比較して劣る。
b)CVD法
 減圧下で種々のガスをキャリアガスと一緒に供給し,被コーティング材表面上で化学反応させて,反応物を被処理剤材に付着させ被膜を形成する方法。TiC-TiCN-TiNなどの多層被膜を容易に形成できるが,処理温度が1000℃程度の高温であるため,被コーティング材が変形しやすい。密着性はPVDに比較して優れている。
c) PCVD
 CVDと同様に種々のガスと供給し,被処理剤材表面上でガスをプラズマ状態にして,反応物を生成させて被処理材に被膜を形成させる方法。TiAlN,TIC,TiCNなどの皮膜が形成できる。図2-54にパルスDC-PCVD法により作製したTiAlSiCNO/TiAlN/TiN多層膜のSEM像を示す2)。処理温度が500℃程度なので被処理剤の変形が少なく,密着性もPVDより優れている。
d)酸化皮膜処理
 真空炉中で酸素分圧を制御し,Fe3O4の被膜を生成させる方法と,水蒸気雰囲気中で加熱してFe3O4の被膜を生成する方法がある。いずれも処理温度は500~600℃程度である。耐摩耗性,耐溶損性に効果ある。

参考文献
18) ダイカストの標準 DCS D1<金型編>:日本ダイカスト協会(2002)
19) 河田 他:2006日本ダイカスト会議論文集JD06-09(2006)

表2-8 表面処理方法の種類,目的,用途


処理法 目    的 適用部位 留意点

















































浸炭                  
浸炭窒化                
塩浴窒化    
ガス窒化    
プラズマ窒化  
軟窒化  
塩浴浸流窒化    
浸硫        
浸硼            
クロマイジング          
TDR(高温)        
TDR(低温)    





溶射      
放電被覆(WCなど)            
酸化皮膜        
PVD      
CVD        
PCVD    
○:適している