誰でも分かる技術
ダイカストの最新技術(その3)
西 直美
3.4 ダイカスト用新合金
アルミニウム合金ダイカストはJISH5302:2000に14種類が規定されている。2001年の(社)日本ダイカスト協会の調査では、ダイカストメーカ136社のアルミニム合金ダイカスト生産量(約46万t)の約95%がADC12である29)。ADC12は含銅シルミン合金でAl-Si共晶に近い組成を基本にCuが1.5~3.5mass%添加された合金で、鋳造性や機械的性質に優れるバランスのとれた材料である 。その他特殊用途として耐食性に優れたADC5、ADC6のようなAl-Mg系の合金や耐摩耗性に優れた過共晶Al-Si合金であるADC14合金がある。
しかし、先に述べたような特殊ダイカスト法はT6処理が可能であるが、熱処理を考慮したダイカスト合金は少なく、AC4CHなどの鋳物用の合金やADC10、ADC12などを熱処理する場合が多い。 欧米では新しい用途やプロセスに対応した表3-6に示すような合金材料が開発・実用化され、真空ダイカストで生産されるエンジンクレードルやサスペンションアームなどはRheinfelden社の開発したAl-Si-Mg系の Silafont-36合金が用いられている。この合金は靱性を確保するためにFeを0.15mass%以下に抑え、Mnを0.5~0.8mass%して焼付き・溶損防止をした合金である。
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表3-6 高強度・高靭性ダイカスト用アルミニウム合金 |
図3-14 Silafont-36のミクロ組織 |
図3-15 Magsimal-59で生産したSクラスのギヤボックスビーム |
図3-16 Castasil-37を用いたLanborugini Gallardo Spyderのスペースフレーム |
また、Srを100~200ppm添加して共晶Siの改良処理を行っており、図3-14に示すように鋳放しのままでも共晶Siが微細になっている。最近の欧州ではMagsimal-59の適用製品例が多くGIFA2007でも注目された。発表されてからかなり年数がたっているが、Al-Mg系合金は鋳造が難しいことから日本では殆ど使用されていない。しかし、合金特性としては非熱処理型の材料で鋳放しで強度、伸び、靭性に優れることから注目を集めていた。2007年のGIFAではBenzのSクラスのギヤボックスビーム(図3-15)、フロントドアフレーム、BMW 5、6シリーズのサスペンションブラケットなどへの適用事例が展示されていた。同じくRheinfelden のCastasil-37はAl-Si系合金で、鋳造性に優れ、強度及び伸び特性がよい材料である。Mgを低く抑えて時効による機械的性質の変化を抑えている。Lanborugini Gallardo Spyder のアルミニウムスペースフレーム(図3-16)に使用されている。Aピラーやリアコネクティングロッドなどが同合金でダイカストされ、溶接で押出部品などと接合されている。
最近では日本国内でも高真空ダイカストで生産される重要保安部品は同様な材料が用いられている。
最近ではコンピュータや電子機器の小型化、高速度化が急速に進んでおり、コンピュータ筐体やヒートシンクの放熱特性向上の要求が高まっている。複雑な形状をしたヒートシンクの製造はダイカストが適しており、高熱伝導のダイカスト材料の開発が必要になってきた。大紀アルミニウム工業所では、Al-Si-Fe系の高熱伝導ダイカスト用アルミニウム合金を開発、実用化した30)。ダイカストした同合金材料を400℃で焼鈍することにより、190W/(m・K)以上の高い熱伝導率が得られる。これらの新材料は電気機器関係のみならずEVなどの次世代自動車部品用として期待できるものと考えられる。しかし、新しいプロセスや用途に対応したダイカスト用の合金開発に対する関心はまだ低く、今後の開発が期待される。
参考文献
29)西:会報ダイカスト119(2004)
30)大城、宮尻、法邑、川井、鈴木:2002日本ダイカスト会議論文集(2002)89