誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

鋳鉄の材質及び基礎知識

1. 鋳鉄の組織と材質 - 「1-3 基地組織の制御」
早大 中江秀雄

 鋳鉄の基地組織はその炭素含有量からすると過共析鋼(炭素含有量>0.8%)と同一と見なされる。過共析鋼の標準的な組織はパーライト粒界に網目状のセメンタイトが存在する。しかし鋳鉄では、過共析組成であるにもかかわらず基地はパーライト又はパーライトとフェライトの混在組織で、粒界に網目状のセメンタイトは現れない。これはシリコンなどの黒鉛化元素の作用で、セメンタイトが出来ず黒鉛になった結果である。

 前述の様に、球状黒鉛鋳鉄では基地組織のパーライトとフェライトの割合を制御することで FCD800 から FCD400 までを作り分けている。パーライト量を多くするには、パーライト安定化元素である銅、錫、マンガン、クロムなどを適当量添加する手法が一般的である。これに対してフェライト基地にするには、パーライト安定化元素の含有量をできるだけ少なくして、シリコンなどの黒鉛化元素を多めにするのが一般的である。

図3 球状黒鉛鋳鉄のブルスアイ組織

 図3に球状黒鉛鋳鉄の代表的なブルスアイ組織を示す。ちなみに、ブルスアイとは雄牛(ブル)の目(アイ)の意味で、黒目(球状黒鉛)と白目(フェライト)の状態が雄牛の目に似ていることから、このように言われている。このフェライト部分は、凝固完了時(まだ高温)のオーステナイトと呼ばれる基地中に含有している炭素が、室温になるまでに基地中に点在する球状黒鉛の表面に黒鉛となって現れる(析出する)。この白目に相当するフェライト相の大きさ(厚さ)は含有する合金元素や冷却速度に依存し、これらが変わらなければ、ほぼ一定である。したがって、接種により黒鉛粒数が増加すると、フェライトの割合が増加することとなる。

図4 球状黒鉛鋳鉄の完全フェライト組織

 完全なフェライト基地組織の球状黒鉛鋳鉄では、良く磨き詳細に観察すると、凝固時に生成した黒鉛部(内周部)とその後の冷却過程でオーステナイト基地中の炭素が黒鉛化した黒鉛(矢印で示す外周部)とが明確に識別できる(図4)。これは、凝固時に生成した黒鉛の方が固相から生成した黒鉛よりも結晶化が良好なためであろう。

 片状黒鉛鋳鉄の場合には少し複雑で、黒鉛形態も基地組織に影響する。この現象は、D型黒鉛部にフェライトが発生し易いことで知られている。これは、D型黒鉛は細かいので、A型黒鉛に比べて黒鉛と黒鉛の距離が近く、オーステナイト中の炭素が容易に黒鉛化できるためである。この現象は、球状黒鉛鋳鉄の場合にも黒鉛の近傍で黒鉛化が起こり易い(ブルスアイ組織)ことと良く似ている。

 したがって、片状黒鉛鋳鉄で接種により基地組織がパーライト化するのは、その主原因は黒鉛形態がD型からA型に変化した結果である。この様な場合には接種により硬さは上昇する。片状黒鉛鋳鉄でSi含有量が高すぎるたり大物厚肉部のように低い凝固速度の部位では、A型黒鉛からばら状のBや初晶黒鉛を含むC型黒鉛が現れ、その周囲にフェライトが生成する。この場合、Siを下げるかパーライト安定化元素の添加(Mn、Sn、Cu、Sb、Moなどを含有する接種剤)が必要になる。パーライト組織は凝固から室温までの冷却過程でオーステナイト鉄(γ鉄)が、セメンタイトとフェライトが交互に層状に重なった構造を有する組織に変化したものである。パーライト組織でも、この間隔が狭いほど硬さは増加する。これもパーライト安定化元素の効果である。

※編集局から
中江先生有り難うございました。読者の皆様の質問・意見・感想をお待ちしております。次回からは石原先生(1-2.鋳鉄の用途、1-3.材質の管理保証、1-4.今後の展望)にバトンタッチします。