誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

鋳鉄の材質及び基礎知識

2. 鋳鉄の用途 - 「2-1 なぜ鋳鉄鋳物はたくさん使われるのか」
石原技術士事務所 石原安興

 平成15年の鋳物の生産量は612万トンであり、そのうち鋳鉄と呼ばれる鉄の鋳物(鉄の鋳物には鋼の鋳物もある。その区別はC%が2%以下を鋼と呼び、組織の中に黒鉛が含まれていない。鋳鉄はC%が2%より多く黒鉛を含んでいる。)は、ねずみ鋳鉄246万トン、球状黒鉛鋳鉄135万トン、鋳鉄管59万トン、可鍛鋳鉄8万トンの合計448万トンで鋳物の中では一番多い。

図1 鋳鉄製シリンダーブロック

  なぜこのように多くの鋳鉄鋳物が使われるのであろうか?まず、 鋳物は他の金属の成形法と比べてみると、色々な特徴がある。な んといっても形状の自由度があることであろう。図1に自動車のシ リンダーブロックを示すが、他の工法ではこのように複雑なものの 量産は不可能である。鋳物は中子を使えばどんな形状も出来る。 また、寿命の終わった鋳物は、回収し再度溶解すれば再び鋳物 を作ることが出来るエコマテリアルである。その中で鋳鉄が非常 に多いのはなぜであろうか?

図2 シリンダーブロックの中子

 鋳鉄の一番の特徴は黒鉛があることである。黒鉛は、強度が 低いので、鋼の鋳物に比べて強度が低くなり、伸びも低くなる。 但し、鋳鉄の中で球状黒鉛鋳鉄は、黒鉛以外の部分(基地)を 調節することで鋼に負けない強度を得ることが出来る。例えば、 ADIと呼ばれるオーステンパー球状黒鉛鋳鉄は1,400MPa という高強度のものもあり、鋼の熱処理品の替わりに使われ ることもある。

図3 曲げても折れない球状黒鉛鋳鉄

 また、熱処理をすることによって軟らかく、図3に示すような良 く曲がる球状黒鉛鋳鉄もあり鋼板の部品に取って代わった自動 車のサスペンション部品もある。
 黒鉛は良い面もある。黒鉛は潤滑材であり、加工するときに刃 物の滑りが良く、削り屑が黒鉛のところでぶつぶつ折れてくれる ので、鋼の削り屑のように刃物に巻き付いたりしないので加工 しやすく、切削性が良いということになる。

図4 減衰能の比較

 また、黒鉛があることで音や振動を吸収してくれます。図4は振 動を与えた後の振動の収まり方(減衰能)の比較を示す。従って、 自動車や機械の部品に鋳鉄を用いると、振動が少ないとか、音が 小さいとかいうことになる。  鉄は地球上に多く存在し、製造面では、鋼に比べると鋳造しや すいというようなことで、コストが安いということも多く使われる理由のひとつである。

(つづく)