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アルミ合金鋳物の材質及び基礎知識
1.鋳造凝固組織と機械的性質 「1-1 凝固偏析と溶体化処理:目的と評価」
鋳造用アルミ合金のほとんどは亜共晶組成のAl-Cu、Al-Si、Al-Mg系合金からなっており、通常の鋳造凝固では溶湯から初めに現れる(生成する)固体がAlの結晶(Alの初晶:樹枝状晶:デンドライト結晶)である。これは、温度が下がるに伴い数が増え、各々が大きくなってゆく。同時に残液中のAlの濃度が下がり合金元素(Cu,Si,Mgなど)の濃度が相対的に上がり、それぞれのアルミ合金系で共晶組成(Al-Cu系:33%mass% Cu、Al-Si系:11.7mass%Si,Al-Mg系:35mass%Mg)に達したとき、新たな結晶(共晶)が残液から現れ、残液がなくなった時が凝固完了である。凝固の最初に生成するAlデンドライトアーム(樹枝状晶の本体や突き出した枝のこと)の中心部は合金元素の濃度が著しく低く、最後に凝固する外周部は非常に高くなる。その結果アームの中心と外周部では、合金元素の著しく大きな濃度分布が存在する、図1。結晶の中心部の合金元素濃度が低く外周部が高い分布を示すのは、状態図の液相線(溶液から初めに固体が現れる温度)と固相線温度(完全に固体になる温度)が合金元素の量の増加とともに低下する合金系で起こり、逆の合金系では、合金元素の濃度分布も逆になる(例えばTiでは図1に示すように結晶およびアームの中心の濃度が高くなり、外周部で低くなる)。
凝固終盤になると、鋳物の最終凝固位置(結晶粒界やアーム間隙、デンドライト境界)に残存する溶湯は、先に示した共晶組成にまで濃化し、共晶相と呼ぶ結晶が非平衡状態で凝固する(凝固速度が大きいので、溶湯の成分と凝固温度のバランスが取れない状態で凝固すること)ので、この結晶内でも合金元素の濃淡(偏析)が生じる、図2。凝固時の冷却速度が速いほど、初晶(αAl固相)内のCu含有量は低く、非平衡凝固する共晶相には高くなる。この偏析挙動は、他の合金元素Si、Mgなどが添加された場合でも同様である。
このような偏析を持った鋳物を引張り試験すると、引張強さだけでなく特に伸びや衝撃値などの靱性が大変低くなる。そのために非平衡で生成した共晶相とαAl初晶内に固溶(液体と同じく、固体でも溶媒と溶質に相当する関係があり、溶媒に相当する固体Alに溶質に相当する合金元素を溶かし込むこと)している合金元素の分布を均一にする必要がある、図2。この熱処理が溶体化処理(T4処理)である。
溶体化処理(T4処理) は、合金の溶解開始温度直下の高温に鋳物を加熱して長時間保持することにより合金元素の拡散(元素が固体内を濃い部分から薄い部分に移動すること)を起こさせ、どの結晶(固相)内でも合金元素の濃度分布を均一にした後、急冷する。この処理により、αAl相内に合金元素が入ってくるので、全体をより均一にすることができ、続く急冷によって室温までこの均一状態を維持(室温では不安定な状態)させることができる。このままでは、まだ機械的性質を改善できない。そこで、時効処理(焼もどし処理:T6処理)が必要になる。時効処理(焼もどし処理:T6処理)により、先の処理(T4)で生じた合金元素濃度の不安定状態を解消させる。これは室温よりやや高い温度で長時間保持し、機械的性質を改善させる硬化相を多量かつ均一に出すことである。
話を溶体化処理に戻すと、元素の固相内拡散は非常に遅いので、溶体化には共晶相の種類や量、大きさにもよるが、図2に示すようにおよそ~6時間ぐらいかかり、αAlデンドライトアーム相内を均一化するにはさらに数時間を要する。またデンドライト組織が粗いほど均一にするのに長時間を必要とする。拡散は温度が少しでも高い方が早く起こる。図3に示すように溶体化温度が高く、保持時間が長い方が合金元素の均一性が高くなり強度と靱性は上昇する。なお、遷移金属のTi、Fe、Mnなどの拡散は非常に遅く、通常の溶体化温度では均一にはならない。他の元素や不純物が含有されると、溶融する温度が低い別の共晶相が生成しやすいので、溶融開始温度を正確に計測しておく必要がある。溶体化温度が高すぎると低温の共晶相が溶融し、その部分が膨張して鋳物表面にフクレが生じ、さらにそれが凝固すると収縮して空孔が生じる(バーニング)ため温度管理を厳重にする。各合金鋳物の溶体化の温度と時間はJISに示されている。