誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

アルミ合金鋳物の材質及び基礎知識

2.溶湯と鋳造 「2-2 リサイクル合金の溶解」
日本軽金属株式会社 北岡 山治

リサイクルが容易であること、リサイクル性に優れることは、軽量であることとともにアルミ合金の長所の代表といえる。しかし、実際のリサイクル作業においてはそれなりの注意を払わないとさまざまな問題が発生する。ここでは、溶解における問題点を中心に話を進めてみよう。

“一次合金”と“リサイクル(二次)合金”
 他の材料と同様に、アルミ合金地金は大きく二つに分類することができる。一つは“一次合金”であり、もう一方は“リサイクル合金”である。

<一次合金>
 純金属としてのアルミはご存知のように、ボーキサイトという赤茶色の土を化学的な処理によってアルミナという酸化アルミの粉末を抽出し、氷晶石などとの混合物として溶融塩電解することによって電解炉中で造られる。この電解製錬工程では大きな電力を必要とするため、アルミが電気の缶詰と呼ばれることがある。このような不純物の少ない純粋な純アルミを基にして各種添加元素を加えることによって希望するさまざまの合金にすることができる。このようにしてできた合金地金が“一次合金地金”、あるいは、“新塊”などと呼ばれる。ここでは“一次合金”と呼んでおこう。一次合金では純粋なアルミをベースにして合金化するため、希望する合金成分に正確に調整することが容易であり、不純物が少なく成分的に安定した材料とすることができる。

<リサイクル合金>
 製錬合金により造られた各種のアルミ製品は、市中で利用され、廃棄された後、純アルミ地金や他の使用済み圧延・押出加工製品などとあわせてリサイクル原料となり、二次合金メーカーによって“リサイクル合金”(“二次(合金)地金”、“再生塊”などと呼ばれることが多い)として生まれ変わる。リサイクル合金はさまざまな合金製品を原料として製造するため、成分的には規格化された成分範囲には収められてはいるが、鉄をはじめとする各種の不純物成分が多くなっている。このため、成分的には若干不安定で変動しやすいことが問題となる場合がある。また、切断、破砕された小さなかたまりや、切削くずなどが原料となっているため、酸化物などの介在物が多くなる傾向がある。

鋳物・ダイカストでのリサイクル合金の利用状況
 日本国内ではおよそ100万トンのアルミダイカストと50万トンの金型鋳造、低圧鋳造鋳物を主体としたアルミ鋳物が毎年生産されているが、ダイカストについてはその90%以上と、ほとんどがリサイクル合金を用いている。金型鋳造、低圧鋳造鋳物などのアルミ鋳物は、ダイカストよりは一次合金を用いている割合がはるかに大きいが、それでも高い靭性が要求されるホイール用と、一部のシリンダーヘッド、足周り部品などに限定されており、およそ70%以上がリサイクル合金を用いている。圧延、押出用の展伸材については、アルミ缶やサッシの一部でのリサイクル材の利用はあるが、使用比率は極めて少ない。約450万トンというアルミ製品全体の生産量のうち、リサイクル材の利用量は約1/3であり、大半を鋳物・ダイカスト関係製品が利用しているということになる。
  ダイカストがリサイクル合金を多量に利用できることは、アルミ全体のリサイクルを円滑に進めるために不可欠な条件となっている。これは、ダイカストでは溶湯が直接金型に接して凝固するため極めて急冷であり、微細組織になり、優れた機械的性質を発揮することに起因している(神尾先生講座 1.鋳物鋳造凝固組織 「1-3 結晶微細化とは、その目的は」参照)。

リサイクル合金溶解時の注意事項


 前述のように、リサイクル合金を使う場合には成分の問題と、介在物の問題には十分な注意が必要となる。溶解及び溶湯処理時のそれぞれの注意事項と対応策を以下に記す。基本的には前回の講座に示したように、溶湯品質の構成要素に配慮して対応することと言える。

<化学成分での注意事項>
  化学成分ではJISに規格化されている合金成分、Cu、Si、Mg、Zn、Fe、Mn、Cr、Ni、Sn、Pb、Tiと、規格化されていないその他の成分とについてわけて考える必要がある。
 規格化されている成分については、上下の範囲規定があるものは中心値及をはさむ上下の若干の幅で規定されるので問題を起こすことは少ないが、上限だけが規定されている成分については、使用する原料の状況によってはほとんど0に近い場合と、上限値に近い場合などに振れることがある。最も問題になりやすい成分としては、ダイカスト用に大量に使用されているADC12合金におけるMgであり、JISでは“0.3%以下”規定ではあるが、0に近い場合は極めて柔らかく、0.3%ではかなり硬いという大きな変動幅があり、影響が大きい(図1)。したがって、このような場合には、Mgに関しても独自に管理幅を設けることが必要となる。
 規格化されていない成分についてはさらに問題が複雑となり、材料毎に鋳造性や機械的性質などの合金特性が変化する可能性が大きい。最も大きな影響を及ぼす成分は、Al-Si系材料における共晶Siの形態に影響する各種微量成分といえる。微細化する改良処理成分Na、Sr、Ca、あるいは逆の傾向を示すP、その他各種の影響が認められるBi、Sbなどの成分のバランスにより組織が変化するが、個々の成分変化だけでは全体としてのバランスの変化を推定することは難しい。このような場合には、ミクロ組織観察が有効であり、さらに迅速に評価できる方法としては、凝固時の熱分析を用いることが有効といえる(図2)。

<介在物での注意事項>
  酸化皮膜を主体とする介在物については、Kモールド法と呼ばれる破面検査法が有効に利用できる(図3)。溶湯処理によって介在物が問題ない少ないレベルに達しているか否か、確実に評価することで安心して使用できる溶湯を鋳造工程に供給することができる。