誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

アルミ合金鋳物の材質及び基礎知識

1.鋳造凝固組織と機械的性質 「1-2 改良処理とは?その必要性とは?」
東京工業大学名誉教授 神尾 彰彦

 鋳造用アルミニウム合金は流動性、鋳型充填性などの鋳造性が優れているAl-Si系合金がほとんどを占めている。この合金系は組織中に占める共晶(α+Si)相の割合が非常に多く、この共晶中のSi相は薄く長く成長した結晶である。鋳物に引張りや圧縮の力がかかると、薄く長いSi相の先端に力が集中して細かい割れが発生しやすく、そしてSi相とα(Al)相の境界に沿って割れが急速に伝わるので、とくに伸びや衝撃値などの靭性が非常に低い合金であり、強度も低い。

 この割れ発生と割れ伝播を抑えるため、Na、Srなどの元素を微量添加することによって、共晶Si相を粒状微細化する改良処理(モディフィケーション)が行われている。図1に示すように、無処理の共晶Si相は光学顕微鏡観察面では「細長い針状」結晶で、立体的には図2に示すように薄い板形状の連続体である。NaあるいはSrを添加すると、先端が丸みをもった多数の枝に分岐した「さんご状(しだの葉状)」結晶の連続体に変化し、図1の光学顕微鏡観察面では粒状Si結晶として観察される。

 添加するNa及びSr量はおよそ100ppm程度で、NaとSrは凝固時に共晶Si相の成長界面(成長しているSi相の先端と液相との境界)に濃縮して界面エネルギーを低下させ、枝分かれを促進して先端が丸い細い枝を多数分岐したさんご形状にする。

 これらの共晶Si相は溶体化温度に加熱保持すると、図1に示すように分断し、無処理の場合でも短くなるが、改良処理を施したものは完全に微細粒状に分断する。その結果、図3に示すように、砂型鋳造したAl-Si合金において改良処理材の伸びと引張強さの値は非常に高い値を示すようになる。実用合金では共晶組成のAC3Aだけでなく、Siをおよそ5%以上含有するAC2種、AC4種、AC8種の合金にも添加される。Naは添加量がおよそ100ppmを超えるとNaを含有する化合物が生成し、粗大Si相が形成されて改良効果がなくなる過剰処理(オ-バーモディフィケーション)になる。Srはおよそ100~200ppm添加される。250ppmを超えるとSrを含有する化合物が塊状に生成する。なお、過共晶Al-Si系合金にはNa、Srによる改良処理は行わない。これは、過共晶合金では初晶Si相の微細化のためにP(溶湯中でAlPを形成して初晶Si相の核となる)を必ず添加する。PはNa及びSrと共存するとP化合物を形成して、Pの効果を減じるだけでなくNaとSrの効果をなくしてしまう。

 Si相は凝固時の冷却速度を著しく速くすると微細になる。したがって、普通のダイカストでは改良処理が行われなくても共晶Si相は微細である。ただし鋳物用AC4C系合金のダイカストではSrの改良処理が行わることもある。

 Naによる改良効果は1920年A.Paczによって見出されて以来今日まで利用されている。しかし、Naは酸化減耗が激しく、溶湯保持中の改良効果の持続時間が短く、またNaは黒鉛ルツボなどの耐火物を侵食しやすく、耐火物の耐久性を損なう。近年、改良効果持続性がおよそ3倍近く長いSrによる改良処理が多く行われている。 なお、Caも効果度は低いが改良効果をもつ。Sbは優れた改良効果をもっており、かっては改良処理に使われていたが、海外で使用不可元素となったため使われなくなっている。