誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

ダイカストの基礎(その2)

(社)日本ダイカスト協会 技術部  西 直美
図1-2 D.Bruceの発明した活字鋳造機
1 ダイカストの概要
1.3 ダイカストの歴史

1.3.1 ダイカストの起源
 ダイカストの起源は、1838年にアメリカのD.Bruceが手動式の活字鋳造機を発明したことによる1) (アメリカ特許 No.3324)。1800年頃にフランスでダイカストが開始されたとする説もあるが定かではない。図1-2にD.Bruceが発明した活字鋳造機を示す。1843年に実用化され世界各国に伝わったとされる。1905年にアメリカのH.H.Doehlerが、植字造出機の原理を応用して特許を取得し、世界で初めてダイカストの商業生産を行った3)。1915年にH.H.Doehlerにより圧縮空気を用いたグースネック式ダイカストマシン(ホットチャンバーの一種)でアルミニウム合金ダイカストの生産が開始された3)。

図1-3
1917年に輸入された Soss式ダイカストマシン

1.3.2 日本のダイカストの歴史
 日本のダイカストは、1910年頃から数人の技術者によって研究されていたと伝えられるが、その具体的な内容は明らかでない。1917年9月に民間会社として、東京・大崎に精密鍛造部門として「東京鍛工所」を、また精密鋳造部門として「ダイカスト合資会社」(田中ダイカスト株式会社の前身)が初めて設立された。当時のダイカストマシンは図1-34)に示すようなアメリカSoss Mfg Co.の手動式横型トグル型締めプランジャー式ホットチャンバーマシンであった。 1922年にはSoss式ダイカストマシンを参考に図1-45)に示すような手動式のT型ダイカストマシンを開発した。

使用した合金は、錫、鉛、亜鉛を基とした合金であった 。

 1928年にダイカスト合資会社は、ドイツのEckert社から図1-55)に示すような型締め力40tの縦型コールドチャンバーダイカストマシンを輸入し、アルミニウム合金及び真鍮ダイカストを生産した。型締めには水圧、射出には空気圧を利用するものであった。当時のダイカストはカメラ、蓄音機、ラジオ、扇風機などの小型の民需品が主体であった。

図1-4
1922年に開発された
T型ダイカストマシン
図1-5
Eckertコールドチャンバー
ダイカストマシン
 ダイカストの工業化が進展したのは1930年頃からで、アルミニウムを中心とする軽金属が注目を集め、航空機部品、自動車部品、光学機器部品等の生産が行われた。1935年頃になると、航空機工業の確立に伴って、アルミニウム地金の国産化も急速に進み、ダイカストも軍需による発展の時代を迎えた。航空機の空冷エンジンの部品や自動車用ダイカストなど0.5~1kgの大型ダイカストの生産が行われるようになった。

 終戦後、ダイカストは民需産業に切り替え、箸、スプーン、きせる、下駄、弁当箱、戸車、帽子掛、引出しの取手などの製品が主としてアルミニウム合金ダイカストで作られた。

参考文献
1) 平賀力:ダイカスト一般論(硯学書房)(1952)
2) USA Pat. No.3324
3) H.H.Hoehler:”Die casting”,McGraw-Hill Book Company,INC.(1955)
4) 全国ダイカスト工業協同組合連合会:改訂版ダイカスト技能者ハンドブック(全国ダイカスト工業協同組合連合)(2002)
5) 日本ダイカスト協会編:日本ダイカスト史(日刊工業新聞社)(1986)