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ダイカストの基礎(その4)
2 ダイカスト技術の基礎
2.1 ダイカスト用材料
ダイカスト用材料は、金型材料、製品精度、鋳造性、生産性などの制約を受けるため、ダイカスト可能な材料には制限がある。
ダイカスト材料に要求される性質は、
● 湯流れ性、キャビティ充填性がよいこと。
● 鋳造割れが少ないこと。
● 耐圧性がよいこと。
● 凝固収縮が小さいこと。
● 金型への焼付き、溶着、溶損が少ないこと。
などが挙げられる。これらの性質は砂型鋳造や金型鋳造などでいわれる「鋳造性」に相当するもので、「ダイカスト性」と呼ばれる。
現在使用されているダイカスト合金には、アルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金の他に僅かではあるが銅合金、錫合金、鉛合金なども使用されている。以下に主なダイカスト合金について述べる。
2.1.1 アルミニウム合金
アルミニウム合金ダイカストは、軽量で耐食性に優れ、経年寸法変化が少ないことからダイカスト合金の中では最も多く用いられ、ダイカスト合金全体の約96%を占めており、多くの産業分野で使用されている。アルミニウム合金ダイカストは、JIS H 5302:2006に規定されている。なお、地金はJIS H 2118:2006に規定されている。表2-1に日本で使用されている主なアルミニウム合金ダイカストの種類及び用途を示す。
表2-1主なアルミニウム合金ダイカストの種類と用途
種類 | 記号 | 合金系 | 特徴 | 使用部品例 |
アルミニウム合金 ダイカスト1種 |
ADC1 | Al-Si系 | 耐食性,鋳造性は良いが耐力はやや低い | 自動車メインフレーム,フロントパネル,自動製パン器内釜 |
アルミニウム合金 ダイカスト3種 |
ADC3 | Al-Si-Mg系 | 衝撃値と耐食性が良いが,鋳造性が良くない | 自動車ホイールキャップ,二輪車クランクケース,自転車ホイール,船外機プロペラ |
アルミニウム合金 ダイカスト5種 |
ADC5 | Al-Mg系 | 耐食性が最良で,伸び・衝撃値が高いが鋳造性が良くない | 農機具アーム,船外機プロペラ,釣具レバー,スプール(糸巻き) |
アルミニウム合金 ダイカスト6種 |
ADC6 | Al-Mg-Mn系 | 耐食性はADC5に近く,鋳造性がADC5より優れるがAl-Si系に比べると劣る | 二輪車ハンドレバー,ウインカーホルダー,ウォーターポンプ,船外機プロペラ・ケース |
アルミニウム合金 ダイカスト10種 |
ADC10 | Al-Si-Cu系 | 機械的性質,被削性及び鋳造性が良い | シリンダーブロック,トランスミッションケース,シリンダーヘッドカバー,二輪車用ショックアブソーバー,農機具用ケース類,VTRフレーム,カメラ本体,ハードディスクケース,電動工具,ミシン部品,ガス器具,床板,エスカレータ一部品,その他アルミニウム製品のほとんどすべてのものに用いられている. |
アルミニウム合金 ダイカスト10種Z |
ADC10Z | |||
アルミニウム合金 ダイカスト12種 |
ADC12 | Al-Si-Cu系 | ADC10と同様で経済性・鋳造性に優れる | |
アルミニウム合 金ダイカスト12種Z |
ADC12Z | |||
アルミニウム合金 ダイカスト14種 |
ADC14 | Al-Si-Cu-Mg系 | 耐磨耗性に優れるが伸びは良くない | カーエアコンシリンダーブロック,ハウジングクラッチ,シフトフォーク |
表2-2 主なアルミニウム合金ダイカストの化学組成(mass%)
記号 |
Cu | Si | Mg | Zn | Fe | Mn | Cr | Ni | Sn | Pb | Ti | Al |
ADC1 | ≦1.0 | 11.0-13.0 | ≦0.3 | ≦0.5 | ≦1.3 | ≦0.3 | - | ≦0.5 | ≦0.1 | ≦0.20 | ≦0.30 | 残部 |
ADC3 | ≦0.6 | 9.0-11.0 | 0.4-0.6 | ≦0.5 | ≦1.3 | ≦0.3 | - | ≦0.5 | ≦0.1 | ≦0.15 | ≦0.30 | 残部 |
ADC5 | ≦0.2 | ≦0.3 | 4.0-8.5 | ≦0.1 | ≦1.8 | ≦0.3 | - | ≦0.1 | ≦0.1 | ≦0.10 | ≦0.20 | 残部 |
ADC6 | ≦0.1 | ≦1.0 | 2.5-4.0 | ≦0.4 | ≦0.8 | 0.4-0.6 | - | ≦0.1 | ≦0.1 | ≦0.10 | ≦0.20 | 残部 |
ADC10 | 2.0-4.0 | 7.5-9.5 | ≦0.3 | ≦1.0 | ≦1.3 | ≦0.5 | - | ≦0.5 | ≦0.2 | ≦0.2 | ≦0.30 | 残部 |
ADC10Z | 2.0-4.0 | 7.5-9.5 | ≦0.3 | ≦3.0 | ≦1.3 | ≦0.5 | - | ≦0.5 | ≦0.2 | ≦0.2 | ≦0.30 | 残部 |
ADC12 | 1.5-3.5 | 9.6-12.0 | ≦0.3 | ≦1.0 | ≦1.3 | ≦0.5 | - | ≦0.5 | ≦0.2 | ≦0.2 | ≦0.30 | 残部 |
ADC12Z | 1.5-3.5 | 9.6-12.0 | ≦0.3 | ≦3.0 | ≦1.3 | ≦0.5 | - | ≦0.5 | ≦0.2 | ≦0.2 | ≦0.30 | 残部 |
ADC14 | 4.0-5.0 | 16.0-18.0 | 0.45-0.65 | ≦1.5 | ≦1.3 | ≦0.5 | - | ≦0.3 | ≦0.3 | ≦0.2 | ≦0.30 | 残部 |
また、表2-2にその化学組成を示す。アルミニウム合金は大きく分けてAl-Si系合金及びAl-Mg系合金の2種類がある。Al-Si系合金にはさらにAl-Si系、Al-Si-Mg系、Al-Si-Cu系に分類される。日本で現在使用されている合金は約95%がADC12合金である。なお、JIS H 5302:2006には表2-1の他にISOから導入された12種類の合金が追加されている。
主な化学成分の影響を簡単に述べると、
Si | 流動性を向上させる効果があり12%の共晶組成が最も流動性に優れる。また、凝固潜熱,熱膨張係数を小さくし、高温脆性を防止し、押し湯効果を大きくする。一方、被削性、陽極酸化処理性を低下させる。 |
Cu | 引張強さ、硬さ、高温強さなどの機械的性質を向上させ、切削性、研磨性、高温強さを向上させる。しかし、伸びや耐食性を低下させる。 |
Mg | 耐食性、引張強さ、硬さなどの機械的性質を向上させる。また、陽極酸化処理性を向上させる。しかし、凝固範囲が広いために湯流れ性が悪く、凝固収縮、熱膨張係数が大きくするため熱間脆性を増すので製品の割れを生じやすい。 |
Fe | 溶湯が金型に固着する現象(焼付き)や、金型が溶湯に浸食される(溶損)を防止する効果があり、一般にダイカスト用合金には0.8~1.0%添加される。しかし、Al-Fe-Siなどの脆性な金属間化合物が生成しやすく、伸びや衝撃値を低下させるので注意が必要である。 |
以下にアルミニウム合金ダイカストの用途例を示す2)。
自動車関連 | 電気機械関連 |
一般機械関連 | その他 |
二輪自動車関連 |