誰でも分かる技術
誰でも分かる鋳物基礎講座
ダイカストの基礎(その5)
2 ダイカスト技術の基礎
2.1 ダイカストの合金材料
2.1.2 亜鉛合金
亜鉛合金ダイカストは、薄肉で複雑な形状の鋳物が製造可能で、寸法精度が高く、優れた機械的性質、特に衝撃値が高く、めっきなどの表面処理性にも優れている。亜鉛合金ダイカストは、JIS H 5301:1990 に規定されている。なお、地金はJIS H 2201:1999に規定されている。表2-3に日本で使用されている亜鉛合金ダイカストの種類及び用途を示す。表2-4に亜鉛合金ダイカストの化学組成を示す。亜鉛合金はJISにはZn-Al-Cu系とZn-Al系の2種類が規定されているのみで、そのほとんどがZDC2である。
表2-3 亜鉛合金ダイカストの種類と用途
種類 | 記号 | 合金系 | 特徴 | 使用部品例 |
亜鉛合金ダイカスト1種 | ZDC1 | Zn-Al-Cu系 | 機械的性質および耐食性が優れている | ステアリングロック,シートベルト巻き取り金具,ビデオ用ギヤ,ファスナーつまみ |
亜鉛合金ダイカスト2種 | ZDC2 | Zn-Al系 | 鋳造性およびめっき性が優れている | 自動車ラジエターグリルカバー,モール,自動車ドアハンドル,ドアレバー,PCコネクター,自動販売機ハンドル,業務用冷蔵庫ドアハンドル |
表2-4 亜鉛合金ダイカストの化学組成
種類 | JIS記号 | 化学成分 単位 % | |||||||
Al | Cu | Mg | Fe | Pb | Cd | Sn | Zn | ||
亜鉛合金ダイカスト1種 | ZDC1 | 3.5-4.3 | 0.75-1.25 | 0.020-0.06 | ≦0.10 | ≦0.005 | ≦0.004 | ≦0.003 | 残部 |
亜鉛合金ダイカスト2種 | ZDC2 | 3.5-4.3 | ≦0.25 | 0.020-0.06 | ≦0.10 | ≦0.005 | ≦0.004 | ≦0.003 | 残部 |
主な化学成分の影響を簡単に述べると、
Al | 合金の強度、硬さを増加させるとともに流動性を向上させ、両合金とも4%程度含有される。4.5%を越えると衝撃強さが低下し、脆化する。 |
|
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Cu | 合金の強度、硬さを増加させるとともに耐食性を向上させる。しかし、多く添加されると、寸法の経年変化が起こりやすくなるとともに衝撃強さを低下させる。 | ||||||
Mg | 粒間腐食の抑制に効果があり、0.020~0.06%添加される。規格以上に添加されると流動性、高温脆性、衝撃値の低下を招く。 | ||||||
Pb、Sn、Cd | アルミニウムを含む亜鉛合金ではこれらの元素が一定以上含有されると図2-2に示すような粒間腐食を生じ、使用に耐えなくなるので注意が必要である。 | ||||||
Fe | 過剰に添加されるとFe-Al金属間化合物が晶出してスラッジを発生し、ハードスポットの原因となる。 | ||||||
図2-3に亜鉛合金ダイカストの用途例を示す2)。亜鉛合金ダイカストの特徴を活かした自動車のモールや時計のケース、ドアレバーなどのめっき部品や塗装部品の用途が多い。 |
2.1.3 マグネシウム合金
マグネシウム合金ダイカストは、密度が約1.74g/cm3と実用合金中で最も軽量な金属で、機械的性質は他のダイカスト合金に比較して劣るが、比強度が高く圧縮強さ、エネルギー吸収性に優れている。最近ではその軽量性から、携帯電話、ノートパソコン等のIT機器の筐体として使用が進んでいる。マグネシウム合金ダイカストは、JIS H 5303:2006に規定されている。なお,地金はJIS H 2222:2006に規定されている。表2-5に日本で使用されているマグネシウム合金ダイカストの種類及び用途を示す。また、表2-6にマグネシウム合金ダイカストの化学組成を示す。
表2-5 マグネシウム合金ダイカストの種類と用途
種類 | JIS | 対応ISO記号 | 参考 | ||
記号 | ASTM相当合金 | 合金の特色 | 使用部品例 | ||
マグネシウム合金 ダイカスト1種B |
MDC1B | Mg Al9Zn1(A) | AZ91B | 耐食性は1種Dよりやや劣る.機械的性質がよい. | チェーン・ソ,ビデオ機器,音響機器,スポーツ用品,自動車,OA機器,コンピュータなどの部品,その他汎用部品 |
マグネシウム合金 ダイカスト1種D |
MDC1D | Mg Al9Zn1(B) | AZ91D | 耐食性に優れる. | |
その他1種Bと同等. | |||||
マグネシウム合金 ダイカスト2種B |
MDC2B | Mg Al6Mn | AM60B | 伸びと靭性に優れる.鋳造性がやや劣る. | 自動車部品,スポーツ用品 |
マグネシウム合金 ダイカスト3種B |
MDC3B | Mg Al4Si | AS41B | 高温強度が良い. 鋳造性がやや劣る. |
自動車エンジン部品 |
マグネシウム合金 ダイカスト4種 |
MDC4 | Mg Al15Mn | AM50A | 伸びと靭性に優れる。鋳造性がやや劣る. | 自動車部品,スポーツ用品 |
マグネシウム合金 ダイカスト5種 |
MDC5 | Mg Al2Mn | AM20A | 伸びと靭性に優れる. | 自動車部品 |
マグネシウム合金 ダイカスト6種 |
MDC6 | Mg Al2Si | AS21A | 高温強度がよい.鋳造性がやや劣る. | 自動車エンジン部品 |
表2-6 マグネシウム合金ダイカストの化学組成
JIS | ASTM | 化学成分 | ||||||||
記号 | 相当合金 | Al | Zn | Mn | Si | Cu | Ni | Fe | その他個々 | Mg |
MDC1B | AZ91B | 8.2-9.7 | 0.35-1 | 0.12-0.5 | ≦0.5 | ≦0.35 | ≦0.03 | ≦0.03 | ≦0.05 | 残部 |
MDC1D | AZ91D | 8.2- 9.7 | 0.35-1 | 0.15-0.5 | ≦0.1 | ≦0.03 | ≦0.002 | ≦0.005 | ≦0.01 | 残部 |
MDC2B | AM60B | 5.5-6.5 | ≦0.3 | 0.24-0.6 | ≦0.1 | ≦0.01 | ≦0.002 | ≦0.005 | ≦0.01 | 残部 |
MDC3B | AS41B | 3.5- 5.0 | ≦0.2 | 0.35-0.7 | 0.50-1.5 | ≦0.02 | ≦0.002 | ≦0.0035 | ≦0.01 | 残部 |
MDC4 | AM50A | 4.4-5.3 | ≦0.3 | 0.26-0.6 | ≦0.1 | ≦0.01 | ≦0.002 | ≦0.004 | ≦0.01 | 残部 |
MDC5 | AM20A | 1.6-2.5 | ≦0.2 | 0.32-0.7 | ≦0.08 | ≦0.008 | ≦0.001 | ≦0.004 | ≦0.01 | 残部 |
MDC6 | AS21A | 1.8- 2.5 | ≦0.2 | 0.18-0.7 | 0.7-1.2 | ≦0.008 | ≦0.001 | ≦0.004 | ≦0.01 | 残部 |
マグネシウム合金ダイカストには大きく3種類に分類される。一般的に広く使用されているMDC1DなどのMg-Al-Mn系合金、伸びの大きい MDC2BなどのMg-Al-Zn系合金、耐熱性に優れたMDC3BのようなMg-Al-Si系合金である。なお、マグネシウム合金の場合はJISの規格化が遅れたこともあり、MDC1DよりもAZ91DのようにASTM記号での呼び方が広く浸透している。なお、JIS H 5303:2006には表2-3の他にISOから導入された2種類の合金(MDC5,MDC6)が追加されている。
主な化学成分の影響を簡単に述べると、
Al | アルミニウム量が増加すると固溶体強化、析出硬化、金属間化合物の晶出により分散強化され強度が向上する。一方、伸びや衝撃地は低下する。また、鋳造性や耐食性が改善される。 |
Zn | 2%までは亜鉛が増加すると鋳造性が改善される。しかし2~5%まで増加すると鋳造割れ感受性が高まる。 |
Si | 微細な金属間化合物(Mg2Si)が結晶粒界に分散することで耐クリープ性を向上させる。 |
Mn | Al-Mnの金属間化合物に耐食性を害するFe、Ni、Crを固溶して炉底に沈降させることで、耐食性を向上させる。 |
Fe、Ni、Cr、Cu | これらの元素は耐食性を著しく低下させる元素で、これらの成分管理は十分注意が必要である。 |
図2-4にマグネシウム合金ダイカストの用途例を示す2)。軽量及び延性を活かした自動車のシートフレームやハンドル芯金あるいは携帯電話、ノートパソコン筐体などの用途がある。
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自動車関連 | 電気機械関連 | |
図2-4 マグネシウム合金ダイカストの用途例2) |
2.1.4 その他の合金

図2-5 真鍮ダイカストの用途例2)