誰でも分かる技術
ダイカストの基礎(その6)
2 ダイカスト技術の基礎
2.2 溶解及び溶湯処理技術
2.2.1 合金の溶解
(1) 原料の配合と溶解
図2-6 原料の種類と溶解工程
(2) 溶解炉
図2-7 タワー型急速溶解炉の例
図2-8 浸漬ヒータ型急保持炉の例
図2-9 溶解兼保持炉の例
合金の溶解はダイカストマシンと離れた場所で工場内にて使用する溶湯を全て1箇所で溶解する集中溶解方式と、ダイカストマシンの横に設置して、溶解と保持を兼ねる溶解保持とに分かれる。
溶解に使用する炉には、急速溶解炉、るつぼ炉、反射炉、低周波誘導電気炉などがある。図2-7にタワー型急速溶解炉の例を示す。この炉は、原料を上部から投入し、炉の排熱により予熱・溶解する溶解部と、溶けた溶湯を溜める保持部から構成される。熱効率に優れて溶解能力が高いため、集中溶解炉として多く使用されている。しかし、溶解する合金の種類を変えることが難しく、多品種少量の合金材料の溶解にはるつぼ炉を用いる。熱源には、重油、ガス、電気などが用いられる。
(3) 保持炉
保持炉は、溶湯を直接ダイカストマシンに供給するためにダイカストマシンに近接して設置される。溶解の必要がなく、保温のみの機能であるため熱容量は小さくてすむ。保持炉には、るつぼ炉、反射炉、浸漬ヒータ型保持炉などがある。図2-8に浸漬ヒータ型保持炉の例を示す。熱源が溶湯内に浸漬されているため、熱効率、温度均一性に優れる。また、反射炉などのように溶湯表面の温度が高くならないため、溶湯の酸化ロスが少ない。浸漬ヒータ外周部はセラミックス製で、熱源には電気抵抗加熱とガスバーナー加熱がある。
(4) 溶解兼保持炉
ダイカストマシンに隣接した炉に溶解機能と保持機能を持たせたものを溶解兼保持炉という。図2-8に溶解兼保持炉の例を示す。炉には溶解室、保持室、汲み出し室(出湯口)を備えており、コンパクトに設計されている。少量生産への対応が可能である。
(5) 配湯
集中溶解方式の場合には、溶湯をダイカストマシンに近接した保持炉に移動させる必要がある。これを配湯と呼ぶ。配湯は、一般的には取鍋(とりべ)呼ばれる耐熱性・保温性に優れた容器にフォークリフトに取り付けたり、ホイストで吊すなどして保持炉まで溶湯を運ぶ。溶解炉と保持炉を耐熱性の樋(とい)でつなげて溶湯を供給する方法もある。また、合金材料メーカから溶湯を購入して保温性に優れたポットで運搬する方法などもある。
2.2.2 溶解作業及び溶湯処理
溶解にあたっては、溶湯温度、溶湯品質などに注意しなければならない。溶解温度は、Al合金の場合、合金種にもよるが670~760℃程度が一般的である。これ以上の温度になると酸化や水素ガスの吸収がおきやすいので注意が必要である。
溶解終了後に、溶湯中の酸化物や水素ガスを除去するために溶湯処理を行う。溶湯処理には、酸化物の除去を行う脱滓処理(だっさい)と、水素ガスの除去を行う脱ガス処理がある。これらは、一般的にフラックス処理や不活性ガスのバブリング処理などで行う。処理終了後に溶湯を、710~750℃で15~30分静かに保持する。これを鎮静あるいはキリングと呼び、この間に溶湯中の酸化物やガスを分離・浮上させ、除去する。
(1) 脱滓処理
図2-10
純アルミニウム中の水素の
溶解度と温度の関係
図2-11
純アルミニウム中の水素の
溶解度と温度の関係
(2) 脱ガス処理
溶湯中には、大気中の水素分圧に応じて水素ガスが吸収される。図2-10に純Al中の水素の溶解度と温度の関係を示す。液相への水素溶解度は高く、温度が高いほど溶解しやすい。しかし、固相での水素の溶解度は極めて低い。そのため、溶湯中に吸収された水素の内で凝固時に溶解限を超えた水素は、分子状の水素ガスとして溶湯中に放出されて、気泡となる。その結果、機械的性質や耐圧性を阻害する。
そこで、フラックスや不活性ガスを用いて溶湯中の水素を除去する。フラックスには六塩化エタンなどのハロゲン化物を用いる。最近では図2-11に示すように、乾燥したアルゴンガスや窒素ガスを回転翌の先端から細かな泡状に吹き出す「回転脱ガス法」が主流となりつつある。アルゴンガスや窒素ガスの泡の水素分圧が低いため、溶湯中の水素が気泡内に移動して、気泡と一緒に浮上することで、水素ガスが除去される。フラックスを用いる場合も、塩素ガスなどに水素が吸着されることで浮上、除去される。回転脱ガス法により、酸化物も同時に除去することができる。
(3) 改良処理、微細化処理
砂型鋳造、重力金型鋳造、低圧鋳造などは冷却速度が小さいため、ミクロ組織が粗大に形成され、鋳放しのままでは機械的性質が不十分である。そこで、ミクロ組織を微細にするため、SrやNaを微量に添加して共晶Al-Siを微細化したり、TiやTiBを微量に添加して結晶粒を微細化するなどの処理を行うことが多い。一般的に、前者を改良処理、後者を微細化処理と呼ぶ。
ダイカストの場合は、それらに比較して冷却速度が極めて大きいことから、得られるミクロ組織は微細となるため、これらの処理は余り行われない。しかし、肉厚部などにおける冷却速度は、重力金型鋳造並みに低い場合もあり、用途によっては改良処理、微細化処理は有効である。特に、ADC14などの過共晶Al-Si合金の場合には、鋳造条件や製品形状によていは初晶Siが粗大に形成されることがあり、Pを添加することで微細均一に初晶Siを形成するためには添加が不可欠である。
2.2.3 溶湯品質の確認方法
(1) 水素ガス測定方法
図2-12 減圧凝固法
図2-13 徐冷法
水素ガスセンサーを用いる方法は、定量的に評価できしかもインラインでの測定が可能であるが設備が高価であり、一般的にはダイカストの鋳造現場には不向きである。
ランズレー法は、純銅製鋳型に溶湯を鋳込んで急冷させ、真空にしたガラス容器の中で試料を溶解して放出されたガスを真空系の圧力変化から水素ガス量を求める方法である。特殊な装置や熟練を要し、測定にも長時間かかる。
イニシャルバブル法は、溶湯をステンレス製のるつぼに採取し、減圧容器内に設置してから真空ポンプで減圧し、水素ガス気泡の発生を確認し、そのときの温度と圧力から水素ガス量を求める方法である。気泡発生の確認に熟練を要する。
減圧凝固法や徐冷法は、定量的な評価が難しいが、簡便な方法でありダイカストの鋳造現場に向いている。減圧凝固法は、図2-12に示すように、溶湯をステンレス製の容器に採取し、減圧容器内に設置してから真空ポンプで減圧して凝固させ、冷却後に試料を切断してガス気泡の分布と大きさから水素量を推測する方法である。
徐冷法は、図2-13に示すように内側に断熱材を貼り付けた鋳鉄製容器に溶湯を採取し、静かにゆっくり凝固させることで、溶湯内に発生した水素ガスを浮上させて、その表面の状態から水素量を推定する方法である。予め、水素ガス量が明らかな標準サンプルを用意しておくと判定しやすい。断熱レンガを加工して容器を作製することで、より簡便に水 素量を推定することもできる。ただし、これらに使う容器を十分加熱して水分を除去しておく必要がある。
(2) 介在物測定方法
図2-14 Kモールド法の形状寸法
図2-15 Kモールドの破面観察例
破断面観察法として一般に使用される方法にKモールド法がある。これは、図2-14に示すようなアルミニウム製の鋳型に溶湯を鋳込み、凝固させた後に得られた短冊状の試験片をハンマーなどで5~6片に割り、その破面に現れた介在物の数を求める方法である。図2-15に介在物の少ない破面と多い破面を示す。評価方法としては、全ての破面に現れた介在物の総数を破面の総数(一片当たり2破面)で除した値を求める。この値をK値と呼ぶ。その評価は、表2-7に示すようにK値によってランクA~Eに分類して行い、鋳造に用いてよい溶湯品質であるかを判定する。
表2-7 Kモールド法にようる介在物の判定
ランク | K値 | 清浄度の判定 | 鋳造可否の判定 |
A | <0.1 | 清浄な溶湯 | 鋳造してもよい |
B | 0.1-0.5 | ほぼ清浄な溶湯 | 鋳造してもよいが、できれば処理した方がよい |
C | 0.5-1.0 | やや汚れている溶湯 | 処理の必要がある |
D | 1.0-10 | 汚れている溶湯 | 〃 |
E | >10 | 著しく汚れている溶湯 | 〃 |