誰でも分かる技術
溶解
3.キュポラ溶解の実際 「3-3 送風関係装置の改善による溶湯改良」
図6*1 溶解化学成分の変動
鋳鉄は他の金属材質と比べ、引けが小さく、湯流れがよいなど、鋳造性に優れている。特にキュポラ溶湯は、電気炉に比べ、引けやチル化傾向が小さく、湯流れが良いなど優れた溶湯性状を持っている。しかし、初期のキュポラでは、熱源であるコークスの硫黄(S)を吸収してよりS含有の高い溶湯になる、また出湯温度管理が自由にならない、作業環境の改善や排ガスの公害対策などの多くの課題を抱えていた。
そこでキュポラの改良に取り組んだ。(1) 送風を300~600℃の熱風に変えた。これにより炉内をよりCOの多い還元雰囲気にすることが出来、結果として(図6)加炭は進行し、Siの歩留りは上昇しSの吸収は減少した。さらに出湯温度の上昇と溶解速度の増加となった。
(2) 熱交換器の設置と改良は、炉頂から排ガスを吸引し、熱効率を上げ、除塵などの環境・公害対策にも寄与した。
(3) 送風空気の除湿;わが国は四季があり、冬は絶対湿度が4~6g/m3と乾燥しているが、夏は18~24g/m3と多湿である。昔から夏は出湯温度が低く、鋳巣や白銑化などの欠陥が多く発生するものと思われてきた。それは送風空気の湿度に起因することが分かったので、多湿期には送風中の空気水分を除去して湿度を一定にすることを考えた。除湿には冷凍法が使われた。図7は、送風湿度と出湯温度を示したものである。
図7*2 送風湿度と出湯温度
(4) さらなる出湯温度の管理;送風される空気に1~2%の酸素を添加し、操業初期の初湯の出湯温度を上昇させ、捨て湯をせずにすむ方法に酸素富化という方法がある。設備費も安価で経済的に有利である。 電気炉操業の利点は、CE値(C+1/3Si)等の成分調整や温度など管理面が容易なのでキュポラより優位と言われるが、均一なA型の片状黒鉛組織が望まれるねずみ鋳鉄には、キュポラ溶湯が適している。この鋳鉄の材質判定指標の一つである成熟度(RG)*3は、100%以上が良く、キュポラ溶湯では110~120%を容易に得ることができ、機動力を合わせ、良質な溶湯が得やすい炉と言える。
*1 | 日本鋳物協会編,新版「キュポラハンドブック」P268 |
*2 | 日本鋳物協会編,新版「キュポラハンドブック」P279 |
*3 | W.Patterson(独)が1959年提案:「ねずみ鋳鉄の引張強さ(σn)は,炭素飽和度(Sc)から次式で計算される。σn=102-82.5Sc」 一般的な鋳鉄の実際の引張強さ(σt)はJIS G 5501に規定された方法で測定される。成熟度;RGはそれぞれの引張強さの比即ち「(σt/σn)x100%」のことで、この値が100%より大きくなるほどその材質は良好であるとされる。 |
次回からは、電気炉溶解のお話しを3回連続で掲載します。お楽しみに・・・