誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

溶解

4.電気炉溶解の実際 「4-2 電気炉(誘導炉)溶湯の特徴」
自動車鋳物株式会社 鈴木 敏光

 これまでの一般的な評価として、誘導炉で溶解した溶湯はキュポラなどの溶湯と比較し、チル化傾向が強く、ひけ易くかつ引張り強度も高くなる傾向があると言われてきた。

 図4及び図5は、昭和40年代(1960年代)に発表されたデータであるが、これによると明らかに前述の特徴が現れているように見える。しかし、「この時の誘導炉溶解の条件はどうだったであろうか?」、特に「どんな溶解材料を使ったか」などに付いて考慮する必要がある。この時代の電気炉による普通鋳鉄溶解では、は材料も今日ほど吟味されていたとは考えにくい。特に加炭材の硫黄や窒素、リン含有量は高いのが一般的であった。

 図6では、旧誘導炉溶湯の窒素(N)分がキュポラ溶湯よりも高くなっているが、これは明らかに加炭材の影響と考えられ、強度が高くなる一因になっていることがわかる。筆者らは、加炭材に不純物の少ない電極黒鉛を使った1989年の溶解実験において、窒素含有量も強度もキュポラ溶湯より低くなると言う全く逆の傾向を経験している。

 さて、誘導炉とキュポラでは溶湯の特性に本当に違いがあるのだろうか?あるとしたら、その原因が何なのか考えてみよう。

 両者の炉の特性から見て明らかな 違いは、①キュポラ溶解では「精錬作用」が伴い、これは誘導炉での溶解にはない。②溶解に要する時間がキュポラの方が圧倒的に短いことなどが上げられる。精錬作用のない誘導炉溶解では、炉に装入した材料の素性がそのまま溶湯に反映される。つまり、材料が元々含む合金成分は、ほとんどそのまま溶湯に残ることになる。したがって、錆びた鉄材料を使えば、酸化傾向が強くなりチル化傾向が強くひけ易い溶湯ができあがってしまう。②の場合、キュポラでは炉に材料を入れてから30分から40分で1,500℃以上の溶湯となって炉から出てくる。溶け始めてからの時間で見るとわずか10分程度と短いが、誘導炉では通常90分もかかってしまう。この時間の違いは溶湯にどのように影響するかと言うと、溶湯に新鮮さがなくなってしまうのである。

『鋳鉄溶湯と食材はフレッシュなものがよい。』

 るつぼ型誘導炉は、高温を保ったままで溶湯を保持することが容易であることから、往々にして長時間保持になってしまう事がある。長時間保持によって"溶湯が腐る"、つまり冷えて固まった時の特性を決める重要な要因である"黒鉛核"が減少してしまう。これもひけ易く、チル化し易い溶湯の一因となる。

 このように、誘導炉溶解による溶湯の特性は、その溶解条件や使う材料、溶解過程によって大きく変化する。そこで、次回はこれら「誘導炉溶解のポイント」について述べたい。