誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

鋳鉄の熱処理(第5回)

ものつくり大学 製造学科  鈴木 克美
5 鋳鉄の焼きなまし(焼鈍)

 鋳鉄の焼きなましの目的は2つに大別される。1つは凝固時のチル組織(レデブライト共晶組織)を分解するために高温保持する黒鉛化焼鈍と、もう1つは硬度低下のための基地組織のフェライト化焼鈍である。鋳鉄の焼きなましの代表的サイクルパターンを図5-1に、その場合に組織変化を図5-2に示す。可鍛鋳鉄(マレアブル鋳鉄)のような全面チルの場合は後述する長時間高温保持が必要になるが、部分的チル組織を分解する(チル消し)のような場合には800~900℃の温度での2~3時間保持でチル組織は分解する。その後、700~800℃のオーステナイト相(γ相)から炉冷(炉内でゆっくり冷す、炉冷却)することにより、前述したCCT曲線におけるパーライト変態速度よりも遅い冷却条件でフェライト相(α相)を出すことにより軟化する。単に基地組織のフェライト化による軟化を目的にする場合には、前回(第4回)の連載口座でも紹介したように変態点以下でも一部パーライトの分解が起こり、軟化現象を起こす。その後の冷却過程で約600℃以下では組織は変化しないが、急冷すると内部応力を発生し、ひずみなどの不具合が生じることがある。この内部応力の発生を抑えるために、300℃以下まではゆっくり冷却するのが望ましい。

 


図5-1 鋳鉄の焼きなまし(焼鈍) 熱処理サイクル

 


図5-2 鋳鉄の焼きなまし(焼鈍)における組織変化

引用文献
1)素形材センター編;「鋳鉄の生産技術」(1999),P106