誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

鋳鉄の熱処理(第10回)

ものつくり大学 製造学科  鈴木 克美
10 可鍛鋳鉄

 可鍛鋳鉄(マレアブル鋳鉄)は鋳放しでチル組織にしておき、これを高温度・長時間の熱処理により組織を黒鉛化させる「黒心可鍛鋳鉄」と、脱炭させて鋼に近づけた「白心可鍛鋳鉄」とがあり、図10-1に示すような組織を有する。熱処理パターンは図10-2および図10-3に示す。現在では球状黒鉛鋳鉄の機械特性に近く、熱処理時間が長いことから、ガス管継手などの用途が限定されており、ここでは詳細は省略する。

 


図10-1 可鍛鋳鉄の組織 (左:白心可鍛鋳鉄 右:黒鉛可鍛鋳鉄)1)

 


図10-2 白心可鍛鋳鉄の熱処理パターン1)

 


図10-3 黒心可鍛鋳鉄の熱処理パターン1)

 

11 窒化処理

 鋳鉄鋳物の表面層を硬化させる熱処理には第8回で説明した表面焼入れのほかに「窒化処理」がある。アンモニアガスの分解による活性窒素(N)を約500℃付近の低温で原子拡散させることにより、その表面(数10~100μm)に極めて硬い窒化層が得られる熱処理法でガス窒化という。
 鋼材の場合には窒化物を形成し易い、クロム、アルミニウム、モリブデンなどを含有する鋼種に適用されることが多いが、これらの元素が無くても鉄の窒化物(Fe2N3)を形成してある程度の硬度を上げることができる。(ガス軟窒化)窒化は処理温度が低温のため、寸法変形が少なく、窒化層に圧縮応力が残留するため耐摩耗性や疲労特性が向上する。しかし、基地中にNが拡散するために長時間の処理が必要であり、近年はプラズマやイオンによる方法も普及している。

引用文献
1)素形材センター編;「鋳鉄の生産技術」(1999),P102