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誰でも分かる鋳物基礎講座

アルミニウム合金の時効熱処理と析出硬化(第11回)

東京工業大 精密工学研究所 先端材料部門
教授 里 達雄
3 時効硬化型アルミニウム合金の析出過程と時効硬化

3.6 時効硬化挙動(析出相と転位との関係)

 典型的な時効硬化曲線の例を図41に模式的に示す。時効の進行とともに硬さは増大し、続いて最高硬さ(ピーク硬さ)をとり、その後、軟化する。通常、GPゾーンの形成段階を時効初期、中間相および安定相の形成段階を時効中期および後期とよぶ。また、最高硬さ到達前を亜時効、最高硬さ段階をピーク時効、最高硬さ以降を過時効とよぶ。時効初期のGPゾーンの生成温度や溶質濃度、また、復元現象(GPゾーンが高い温度で固溶・消滅する現象)は準安定溶解度ギャップにより説明できる。

図41 典型的な時効硬化曲線の模式図
 時効硬化曲線の特徴はGPゾーンや析出相と運動転位との相互作用の点から説明できる。図42に時効硬化曲線と析出粒子‐転位間の相互作用の関係を示す。亜時効段階では析出粒子が転位によりせん断され、過時効段階ではせん断されず、オローワン(Orowan)のバイパス機構により転位が移動する。これらの析出強化は粒子サイズをもとに整理すると、
亜時効段階(粒子せん断)   (29)
過時効段階(粒子バイパス)   (30)
  Δτ せん断応力増加分 ƒ 析出粒子体積率
  r 析出粒子半径 ε 整合ひずみ
  α 定数 b バーガースベクトル
  G 剛性率    
を示す。亜時効段階では、 εが大きいものほど強度は大となる。式(30)は、次式のように粒子間隔と結びつけることも可能である。
  (31)
  τ0 析出粒子がない場合の臨界せん断応力  
  析出粒子半径  
である。
図42 時効硬化曲線と析出粒子-転位間の相互作用の関係