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誰でも分かる鋳物基礎講座

アルミニウム合金の時効熱処理と析出硬化(最終回:第13回)

東京工業大 精密工学研究所 先端材料部門
教授 里 達雄
4 析出組織制御と熱処理

4.2.2 無析出帯(PFZ)の形成

 時効硬化型アルミニウム合金では結晶粒界近傍に析出がおこらない無析出帯(PFZ)が形成される。このPFZも合金の強度および延性に影響する。図49にPFZの形成を、また、図50にPFZ幅を熱処理条件やマイクロアロイング元素などの制御により小さくした場合の強度・延性の関係を示す。図49(a)には明瞭なPFZが観察されるが、Agを微量添加するとPFZ幅は極めて小さくなる。

49  Al-Zn-Mg合金(a)およびAl-Zn-Mg-Ag合金(b)の無析出帯(PFZ)
(粒界近傍にPFZ形成.Ag添加によりPFZ幅は著しく狭くなる)

 また、時効温度の低下や二段時効などの工夫によりPFZ幅が小さくした場合、図50に示すように、耐力および伸びがともに大きくなる。このような現象は、大なり小なり、他の時効硬化型合金でもおこるものであり、また、鋳造用アルミニウム合金でもおこる。従って、時効熱処理により優れた強度・延性バランスを実現するためには、時効熱処理などによるPFZを効果的に制御することが必要となる。

図50  Al-Zn-Mg合金の耐力と伸びの関係。PFZを減少させると強度、伸びが増大する。
(Ag添加や熱処理温度を低くするとPFZ幅は狭くなり、強度および伸びの両方が増大する)

 

4.3 鋳造用アルミニウム合金の時効熱処理条件

 鋳造用アルミニウム合金に種々の種類の合金があることはすでに述べた。ここではそれらの合金について、溶体化処理温度と時間、また、時効熱処理温度と時効時間が重要である。これらの条件について、表3にまとめて示す。

表3 アルミニウム合金鋳物の熱処理条件

5.おわりに

 アルミニウム合金について代表的な熱処理である時効熱処理と析出相変態現象について述べた。アルミニウム合金には鋳造用合金と展伸用合金があり、それぞれに特徴がある。従って、時効析出現象も合金系や製造条件等によて大きく異なることがある。これらのことを理解する上でも基礎現象の把握が重要である。本講座で、個別の合金の析出現象や組織、さらには力学的性質について述べることはできなかったが、より実用的な点で本講座の基礎事項が役立つことを期待したい。また、引用させていただいた各種データや図について、すべての文献を記述していないが、ここで謝意を表したい。なお、拙著の書籍16)も併せてご参考いただけると有り難い。

参考文献(第1回~第13回分をすべて記載)

1) 石井忠浩監修:自由自在理科,受験研究社,(2009), p97
2) W. D. Callister, Jr.: Materials Science and Engineering, An Introduction, John Wiley & Sons, Inc. (1994), 93.
3) J. F. Shackelford: Introduction to Materials Science for Engineers, Prentice-Hall, Inc., (1999), 167.
4) D. A. Porter and K. E. Eastering: Phase Transformations in Metals and Alloys, Chapman & Hall, (1981), p73.
5) 里 達雄: アルミニウム合金の強度(小林俊郎編著),内田老鶴圃,(2001), p51.
6) J. F. Shackelford: Introduction to Materials Science for Engineers, Prentice-Hall, Inc., (1999), 358.
7) D. A. Porter and K. E. Easterling: Phase Transformations in Metals and Alloys, Chapman & Hall, 2nd Ed., (1992), 296.
8) 里 達雄: アルミニウム合金の強度(小林俊郎編著),内田老鶴圃,(2001), p61.
9) 渡辺,岡本,河野:軽金属,25(1975), p294.
10) 古閑,鷹合,中山,大西,飯塚,松村,三石:軽金属,43(1993), p612.
11) 大西,鷹合,中山,二ノ宮:軽金属,46(1996), p365.
12) 大西,鷹合,中山,大森:軽金属,45(1995), p447.
13) 軽合金鋳物・ダイカストの生産技術,素形材センター,(2000), p20.
14) 軽合金鋳物・ダイカストの生産技術,素形材センター,(2000), p21.
15) F. R. N. Nabarro: Proceedings of the Royal Society A, 175, (1940), p519.
16) 里 達雄:軽合金材料,コロナ社,(2011).